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第106回 需要停滞と生産資材価格高騰のなかでの日本の酪農乳業

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

- 講演後の質疑応答 -
Q1.今後の対策として、国内だけではなくて海外に打って出るべきという話があったと思うのですが、日本が輸出を増加するためには日本の酪農乳業としてどういうものが足りてないかというのがありましたら教えてください。
A1.
  • 例えば、中国は高齢化が進んでいます。市場調査等で、どういった商品をどの層で販売するのか、どれくらいの事業規模を目指すのかを明確にして取り組む必要があると思います。
    国際市場で展開する場合、乳用牛の飼養形態の特殊性が影響してくると思います。例えば、バターの色です。放牧だとバターの色を黄色くなるそうですが、日本の場合はバターの白い色が重視され、それに適した飼養形態になっています。では白いバターで売っていくのか、もしくは海外に合わせて黄色いバターを作るのか、黄色いバターを作るなら飼養形態の変化も必要となりますが、酪農経営への指導は乳業メーカーの管轄外です。
    これはオーガニックやESGで差別化する牛乳乳製品の開発でも同様と思います。川上から川下まで一貫した製品作りが、日本ではなかなか難しいです。指定団体制度のもと、ある程度の製造量を確保するような垂直統合した取組みが何とかできないか、というところが一番悩ましいように思います。
Q2.生産費の規模の経済性のところで、200頭以上飼うとまた経費がかかるということですが、量が増えるとどんどんコスパがよくなるはずなのにまたちょっと上がるというのは、どうしてでしょうか。
A2.
  • もっと大規模層の各段階で見てみないと本当はいけないのですが、統計の設計から200頭以上としかわからないので、私見ですが、つなぎ飼いからフリーストール、フリーバーンに変わると、牛群を管理することとなります。そうなると例えば飼槽に飼料が並んでいて、気が強い牛は食べられるけど弱い牛は列に並べず食べられない等、一頭ずつみていたつなぎ飼いに比べて、無駄になる部分も出てくるのではと思います。
Q3.フェアトレードで出しているミルクの価格というのは、一般的なものよりどれぐらい高いのでしょうか。
A3.
  • フェアミルクですが、普通のスーパーで牛乳1リットルが高くても0.8ユーロぐらい(乳脂肪分3.5%)のが、1.4ユーロ程(同3.8%)ぐらいのようです。
Q4.北海道と都府県の粗飼料と濃厚飼料の割合というのが出ているのですが、結構違いがあって、北海道は粗飼料が多くて濃厚飼料が少なめなのはどうしてでしょうか。一番効率的に餌代と乳量というのを考えてもベストな割合というのはあるのでしょうか。
A4.
  • これは可消化養分総量(TDN)のベースで示されていて、これはカロリーのように含まれるエネルギーを表す単位です。北海道では、粗飼料として牧草やコーンのサイレージを製造でき、そこからのエネルギー供給量が多いのだとと思います。
Q5.稲の早刈りなんかで飼料にしていますけど、それは粗飼料ですか。
A5.
  • 多収量品種の米はあまり酪農に向かないみたいで、養豚等で使われているように思います。酪農の場合は、WCS(ホールクロップサイレージ)として給餌するのですが、その場合は粗飼料になると思います。
Q6.乳量を増やすために濃厚飼料をあえてあげるというのではなくて、粗飼料が足りないから補完しているということですか。
A6.
  • 牛は草食動物ですので粗飼料だけでも生きていけるのですが、年間10トンの生乳生産に耐えうるエネルギーを得るには、濃厚飼料が必要となります。
Q7.EUは粗飼料がかなりの部分という理解でよろしいんですか。
A7.
  • EUでTDNベースで濃厚飼料が何割かというのはまだ見たことがなくて確証はないですが、個体乳量が日本よりも少ないので、粗飼料の割合は高いと思います。
Q8.粗飼料と濃厚飼料のパーセンテージというのは、黄金律的に乳量と関係するものがあるかなと思ったのと、粗飼料においての自給率というのが高ければ、粗飼料が多いほうが、将来的に日本の輸入に頼らないという部分ではいいのかなと思いました。
A8.
  • 最終的にどのくらいの乳量が欲しいのかという点に尽きると思います。EUは個体乳量が日本より少ないわけですが、増産を抑制するのに粗飼料の比率を高めて濃厚飼料を下げて、乳量を落とすというプログラムを進めていました。もちろん品種が違うので、日本でホルスタイン種ではこういった調整は難しいのかなと思います。もちろん牛の胃の状態を考えるとそんなに変化はさせられないんですけど。
    一方で、1頭の牛から得られる乳量が多いほど環境保全的といえます。1頭当たり排出する温暖化効果をもつメタンの量は大きくは変わらないと思いますので。
    その辺りの調整が難しいように思います。輸入依存度を下げると、1頭あたりの乳量も減り、生産が非効率になり、環境負荷も大きくなる。生産効率や環境負荷を考えると、濃厚飼料もある程度は必要になる。
Q9.濃厚飼料をたくさん輸入していて、でも足りなくてというのをよく聞きます。日本の農業の中でそれを、もちろん企業ではそういった努力をされているようですけども、全体としてこれを増やしていくような取り組みとかはされていますか。
A9.
  • イアコーンという形で、デントコーンの上だけを刈って、それを餌としてあげるという取り組みは北海道でやっています。そして自給した場合と輸入品を購入した場合の価格差についても、実証研究が取り組まれています。
    問題は、自給したほうが安い場合でも、それの担い手がいないことかなと思います。私の知る限りですが、飼料作物の収穫では晴天での作業に限定されます。サイレージ調整の際の水分が変わってくるからです。天候を見ながらの作業になるので、かなりきつい労働になります。
    前述の通り規模拡大で増頭しており、必要となる餌の量も増えていますし、その分の収穫作業の負担が大きくなっています。これに加えて、濃厚飼料分を自給できるか、その余力はないのではと思います。従って、外部の支援組織として、地域の土木や建設業といった、大型農機の作業ができる、酪農部門以外から人手を借りてこないといけないんじゃないかと思います。
    栽培技術としては、イアコーンはかなり進んでいると聞いています。
Q10.ウクライナもそうですが、自給率の低い日本の未来を考えると、できるだけいろんな意味での自給率を上げていくことを長期目標でやっていかないと、何かあって入ってこないということもこれからは現実味を帯びてきますので。
A10.
  • そうですね。ただ、やっぱり日本は山が多く、平地や平野が少ないというのは構造的な問題として存在し続けるから難しいですよね。
Q11.今、アフリカなんかも食糧危機とかといってかなり深刻になっていますので、すごく単純なんですが、例えば脱脂粉乳とか、先生の資料ですと乳幼児用の調整品、粉ミルクとか、輸出額はまだ2000万未満ぐらいというふうに書いてあって、世界がこれだけ食糧危機で困っている中で、何かこういうところで日本って貢献できないのかなと素朴に思ったんですが、そんなに単純じゃないんでしょうか。せっかくあるのに、必要なところに届いていないというのがすごく歯がゆいなと感じたんですけれども。
A11.
  • 私も同じ思いがあって。うまく制度が設計されないかなと期待しています。アメリカでは、国内の在庫を上手に海外支援に回したり、コロナの際に学校給食を家庭に配ったりしていました。やり方は参考になるなと思います。
Q12.アジアの酪農というのは今どういうようになっているんでしょうか。
A12.
  • 例えば、ベトナムにはビナミルク社という大手の乳業があったり、オランダの乳業大手がインドネシアに大きな工場を建設したりしていますね。2050年までは人口は増えると見られている地域ですので、イスラエルの乳業メーカーや乳業機器とか酪農機器の会社やオランダが投資を強めている感じです。
    そのためには原料となる生乳生産が必要で、アジア市場へ設備投資している乳業も現地での酪農支援を進めていっています。
    一方、日本は同じアジアで酪農乳業が発達しておりますので、アジアの市場で展開しやすいのではないかなと。たとえば求められる味や調理方法等での乳製品の位置づけといった点で、親和性があるように思います。
Q13.2021年に東京栄養サミットというのが開催されて、その中で、日本栄養士会が世界に向けて、世界の栄養不良を撲滅するためにコミットメントするというのを中村丁次会長が掲げました。そのお話を伺っている中で、まだアジアには栄養士とかあるいは栄養士制度というのがない国があって、子供たちとか栄養不良の人たちの栄養改善のためには、まず人材育成とか、そういったことで日本がいろいろ協力をすることになったようなんですね。その中に学校給食制度というのも入ってくるらしくて、今ちょうどラオスのほうから申請があって、これからラオスの栄養士の人たちの養成と学校給食に力を入れていくという話をちょうど伺っていたので。ポンと輸出しても、それがいいよという教育といいますか、そういったところも一緒にならないとなかなか普及しないのかなという気がしました。たまたまそういうお話を伺っていて、アジアで栄養のいろんな勉強も含めて、そういったものを学校給食の中に取り入れられたらいいのにと思いました。
A13.
  • ありがとうございます。
Q14.今ウクライナの問題で穀物が非常に言われていますが、日本の酪農で輸入している飼料というのは主にアメリカから来ているんですか。今回のウクライナへのロシアの侵攻でいろんな影響が出ていますけれども、そういう乳業の飼料関係で既に影響が出始めているのでしょうか。さっき中国とか韓国の量が多くて、日本はそのうち買いたいよと言っても素通りされちゃうんじゃないかというお話があったんですが。
一方で今、世界が二極化というか二分されて、アメリカもそんなにうかうかと、高いから、もうかるからといって中国とかに大量に売るという行動が変わってくるんじゃないかというのもあるんですが、今回の世界情勢が日本の乳業界に与えてくる影響みたいなのは考えられるんでしょうか。
A14.
  • 確かにおっしゃるとおり、餌の中にウクライナから来ているものはほとんどなくてということですよね。今回の餌価格が高くなっているのは、そもそも中国の需要増が2021年にあって餌の価格は国際的に上がってしまっていて、各国で生産するので今は増産、増産という感じになっているので。だから、おっしゃるとおり直接的ではないですね。
    しかし、例えばEUで乳価が高くなっているのは、原油高、エネルギーのところが高くなっているから乳価を上げざるを得ないという因子も働いているんですね。向こうの酪農家さんにとっても。乳価が高くなると餌を生産するので、餌の価格も上がってしまっている。
    結局はグローバル経済のなかで玉突きが起こっているのでは、と思います。細かく分析はできていないんですけど、フレート、海上運賃は原油高が影響していますよね。ロシアへの経済制裁の影響ですし、こうした経済制裁でもっと値上がりするのを投機の機会にとらえてしまうこともあるようで。高くなりそうだから買っておくか、となると相場は高騰します。かなり見通しづらいことが、余計な相場高騰を生んでいるのではないかなと。
Q15.食料自給率が40%から今は37%ですよね。どんどん下がっていて、食料安全保障とか考えたらほんとに危機なんじゃないかと思っていて、どうしたらいいだろうって。酪農だけじゃなくて、大変なことじゃないかと思っていました。
飼料の国内自給率は25%で、アメリカ、ブラジルからの輸入トウモロコシがメインということで、ほとんどアメリカと南米から、69%アメリカ、18%ブラジルで、9%がアルゼンチンからの輸入ということが載っています。ロシアからだと1万トンで、ウクライナからも多少入っている。
だけど、おっしゃったようにグローバル化しているので、世界中で影響を受けているのかなと感じていて。正直、飼料は安いから輸入しているのかなと思っていたんですけど、国産のほうが安いというのを聞いて今びっくりしたんです。その影響が労働の問題だとかということで、ほんとに危機的なんだなと。乳製品を輸出するのも大事だけど、何とか国内の飼料自給率も、労働の問題も解決して、全部は無理でも国内でつくれるような、そういう方向に持っていけないかなと。その仕組みってすごく難しいとおっしゃっていたんだけど、していかないと。
私たちは安いものがいつでも手に入ると思っていたらいけないと思います。値上げは嫌だとみんな言うんだけど、生産者を支える、そういうことも、フェアトレードじゃないんですけど、私たちは一消費者として支えていかなくちゃいけないのかなと感じました。ウクライナの影響で原油も上がっている。全て上がっていて、どうしたらいいんだろうなという暗澹たる気持ちです。今日は業界を挙げて考えていただかないといけない問題なのかなと思いました。
A15.
  • 国内産の方が安いという研究結果は、単価の計算でしかないです。実際に作るとなると、平野の面積が足りない、労働力がない等でなかなか難しいです。労働力についてですが、酪農家は子供の学校行事にも参加できないほど多忙と聞いています。食料安全保障という消費者が利益を被る目標の達成、自給率の向上のために、寝ずに飼料を生産しろ、とはちょっと言えませんよね。
Q16.労働者をどうしていくか。今、水産業だって、野菜農家とかもほとんど、外国人労働者がいないと成り立たないわけですよね。そういう状況の中で、私たちは何でも安いものと言っているのもだめだし、じゃあどうしていったらいいんだろうということをみんなが考えていかないといけないのかなと。ほんとに何かがあったら食べ物が入ってこなくなっちゃう状況になっちゃうんじゃないか。スーパーに行ったら何でもある、それが当たり前。そんな生活がぱたっとどうなっちゃうかなという不安を感じています。
A16.
  • おっしゃるとおりと思います。現在の酪農家と政府のやり取りで疑問に思うのは、今まで通りの農業生産、農畜産物消費の在り方のままの延長線上で考えられていることです。例えば、酪農家を守るために乳価を上げる、消費者もそれを引き受けるから、一緒になって現状を改善する機会になれば、と思います。それには消費者の方も価格や流行のみを追うことについて考えて欲しいように思います。しかし、店頭ではプライベートブランドの安い牛乳の方が売れているように感じています。
Q17.もし輸出とかと考えるのであれば、付加価値をつけたもの、例えば機能性のあるもの、日本の技術とか研究で付加価値の高いものを輸出するならしていくのがいいんじゃないかと思います。特保とか機能性表示食品とか、今いっぱい出ていますので。いろんな乳製品も出ていると思うので、普通の乳製品じゃなくて、そういったものを輸出するなり、日本独自の技術を開発していけたら輸出にもつながるのかなと思いました。
A17.
  • おっしゃるとおりで、主な乳製品輸出国は酪農大国なので、プライドがあるから、あえてそこには行かない分野ってあるようです。日本のような相対的に歴史の浅い、といっても明治以降ですので長い蓄積はありますが、そういった国の方が商品開発は柔軟で、ちょっと遊べるんじゃないかと期待しています。