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第109回 世界で拡大を続けるプラントベースとプラントベースミルクについて

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

プラントベースミルクの主なメリット

プラントベースミルクの主なメリット

少しミルクのメリットを見ていきたいと思います。
一つは美容・健康面です。動物性に比べて全般ローカロリー、低脂質、低糖質、コレステロールゼロというところです。種類によっては食物繊維が豊富、ビタミンEが豊富ということがあります。
二つ目が「多様性」に対応しやすいということです。不耐症や先ほどのアレルギーに対応できたり、それから価値観でヴィーガンとかさまざまな宗教の方々へも対応ができたりというところがあります。
三つ目が「環境配慮への貢献」ということです。温室効果ガスというところに限っていえば、排出量が削減できたり、ちなみに水の使用量でいうと今、オーツミルクが最も少ないということで海外ではすごく伸びています。それから動物福祉だったり、あとは賞味期限が結構長め、常温保存ができるというところが強みだったりします。
ただ、右下の表のように、カルシウムというところではやっぱり牛乳には勝てないというところがあります。それぞれの強みがあると思います。

近年の海外トレンド事情

大きな流れは透明性

大きな流れは透明性

近年の海外トレンドとしては、大きな流れはやはり透明性というところがすごく大きく言われています。それは産地とか原材料とか製造プロセスを明確に消費者に明らかにするということだったり、世の中の流れ的にサステナブルというところに向かっているので、社会や地域への貢献とか企業活動の全てにおいて透明であるということが信頼をかち取って、ゆくゆくはブランド価値につながるという、そんな流れになっています。ですので、原材料でいうと、健康とかナチュラルさを重視したシンプルなものになっています。
EUのグリーンディールというサステナブルな戦略の、食の分野のFarm to Forkという戦略があるのですが、そこでもこういったサーキュラーエコノミーの考え方とかがすごく取り入れられて加速をしていて、もしかすると今後アジアでも法規制とか基準に取り入れられるかもしれないということは覚えておくといいかなと思います。

さまざまな原料によるプロテインフード例

さまざまな原料によるプロテインフード例

実際の商品としては、左上がプラントベースのプロテインパウダーです。主原料はエンドウ豆プロテイン、ライスプロテイン、パンプキンプロテインで、「カナダのハリファックス地方の農家と共同でつくられた製品で、今まで規格外として廃棄されてきた野菜や果物をアップサイクルしています」ということがパッケージに書いてあります。素材としてもやはりシンプルで、アップサイクルというものは今まで例えば食べ物だと食べられるレベルのものだけれども廃棄せざるを得なかった、そんなもったいない部分を商品として活用しようということを言います。そういったアップサイクルをすることによって、さらに価値をつけて商品にして、付加価値をつけて販売しようというような流れが今、海外や特にファッション業界なんかではすごく進んでいます。
一番下の日本人になじみがあるおからですけれども、おからパウダーも「プレミアムなサステナブル食品のOKARA粉」というふうな表現もされていて、アップサイクルしたものや、おから粉みたいなものも、訴求ポイントの工夫次第でいろいろ付加価値をつけて商品にしていくことができるというヒントになるかと思います。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)に基づく事業設計

サーキュラーエコノミー(循環型経済)に基づく事業設計

全体の設計としては、サーキュラーエコノミーという循環型経済に基づく事業設計というものを、海外ではもうメーカーさんも考えられているところがすごく多いです。下の動物タンパクというところで見てみると、製造のプロセスとか消費者に届くまでのバリューチェーンでそれぞれどんな課題があったり、どんな可能性があるかというところを一個一個洗い出していって、そういったトータルの事業設計ということを考えているような流れです。日本だとまだまだそこはコストと捉えられる会社さんがすごく多いですけれども、海外だとコストというよりは投資という考え方で、こういった事業全体の設計をサーキュラーエコノミーという視点で考えています。

植物性と動物性のハイブリッド商品

植物性と動物性のハイブリッド商品

一つおもしろいのが、植物性と動物性のハイブリッド商品というものも出ていて、お肉50%・野菜50%、何かハーフアンドハーフでつくった商品になっています。ベジタリアンとかヴィーガンの方は食べられないのですが、プラントベースの商品としてこんなものが出てきています。
ちなみにプラントベースドリンクと牛乳をブレンドした商品についても、海外だと結構検討されているらしく、そのいいとこ取りの牛乳とプラントベースミルクが合体したみたいなものに興味を持つという方もアメリカだと45%、イギリスで35%いたということです。そういったハイブリッド商品みたいなものが、フレキシタリアンに限らず幅広い方々のトライアルみたいな入り口になるということで注目を浴びています。

海外の様々な牛乳例

海外の様々な牛乳例

こちらは参考で、海外だとこんな牛乳があるというご紹介です。アルメニアだと賞味期限が4日しかなくて、6日目にはヨーグルトになっているのですごく使い切るのが大変だそうです。そのかわりにコクがあってすごくおいしいということで、結構こういったものを買う方も多いみたいです。
中国でも賞味期限3日の牛乳が売っていて、スーパーで買うだけではなくて業者さんに申し込めば配達もしてもらえて、パッケージが何と厚いビニール袋に入って売っていたりということだそうです。
オランダのサーキュラーエコノミーが一番進んでいると言われているアムステルダムですが、そこでは一番大手のスーパーマーケットで瓶詰めの牛乳を売っていて、生産者がそれぞれ違うので、同じパッケージで同じブランドですが、そこに生産者の名前と乳脂肪何%というシールが張ってある商品もあるそうです。
海外だと野菜もグラム売りで、規格みたいなものがあまりなかったりするので、そういった方々から見ると日本が逆に特殊な売り方になっていたりするのかもという気づきもあったりしました。

フードテック関連書籍も増加

フードテック関連書籍も増加

最近はフードテック関連の書籍もすごく増えていて、マッキンゼーさんがこういった整理をしていて、世の中の食の分野での8つのメガトレンドとか、先ほどのようなバリューチェーンといって生産から流通とかこういったプロセスで、それぞれの切り口で課題とかヒントを整理して本があるので、こういったものも総論的に見るとすごく参考になるかもしれません。あと、さまざまなメーカーさんや技術を紹介したり、ベンチャーの紹介みたいな本も出ています。

プラントベースミルクメニューBOOK

プラントベースミルクメニューBOOK

『プラントベースミルクメニューBOOK』は、私がChapter 1のところは監修をさせていただいた本ですけれども、先ほどのプラントベースミルクというところ、今日お話ししたような内容とか、実際にお店ではどんな人気メニューがあるのかみたいなこととか、そういったものをどうスイーツに活用しているかとか、それから海外のお話なんかもあったりというような本になっているので、プラントベースミルクというものをもう少し深く知りたいなという方々は、ぜひこういったものも参考にしていただけるとすごくいいかなと思います。

というところで、共存共栄ということで今日はプラントベースミルクのお話をさせていただきました。プランドベースミルクには強みはあるけれども弱みもあったりするので、強みを新たに再認識したり、そこをどういうふうに伸ばしていくかみたいなことで、皆様のヒントになればと思います。

乳業メーカーの取り組み状況

A社:
「健康」をテーマとした商品を数多く発売してきており、「乳酸菌」や「たんぱく質」に「こだわり」を持った商品には、特に注力してきました。これからも、「プラントベースフード」を含めた健康価値に留意した商品群の開発という点には、力を入れていく方向にあると考えております。

B社:
乳業メーカーの長い歴史の中で、例えばマーガリン、これはバターのベネフィットを引き継ぎながら共栄共存してきた植物性の食品のいい事例だと思いますし、ホイップにも植物性のものがあります。これは一部で疑似生クリームと揶揄されるところもありながらも、やはり植物性であるがゆえの強みですとか、そういったことをアピールしてこれた歴史が、乳業の強みなのではないかと思っております。
そんな中で現状、乳業メーカーが持っている製造・販売・流通のそれぞれのプロセスの中で、プラントベースフードにも活用できる要素がたくさんあるのではないかなと思っています。
海外の企業と合弁会社を作り、植物性食品の加工用原料の製造販売に、2025年に向けて本格的にやっていくというキックオフをしました。そのプロセスの中で、恐らくその合弁会社を活用する前に市場性を問うような動きはやっていこうという予定です。

C社:
プラントベースフードにつきましては、現在主に海外で、特に北米を中心に注力しています。
一方、国内も徐々にプラントベースフードへの注目が集まっていると考えており、ソイやオーツを原料に使ったラインナップを拡充しています。
プラントベースフードは今後も市場の拡大が見込まれていますが、これまで愛されてきました牛由来の牛乳・乳製品の需要が置きかわるというようなシフトは国内では当面は考えにくいかと考えていまして、引き続き酪農と乳業は連携してお客様の健康づくりに貢献していきたいと考えています。

D社:
当社は、生産者が100%出資した会社でもあることから、現在の生乳需給緩和の状況下では、プラントベースフードについて取り組むという姿勢ではありません。しかし、ゆくゆく世界の人口が増えつつ、また国内も(牛乳乳製品)消費がどんどん増えていくということであれば、こういうことも決して否定するものではないという認識に立っています。
プラントベースフードとの共存共栄というのも非常に大事なスタンスではあるのかと思っていますので、今後こういう動向を見ながら対応をどういう形でしていくのかという検討をしていく方向にはあります。

E社:
当社は一部クリーム等で植物性由来の脂肪を使ったものなどの製造をしていますが、ほかは特に取り組み等は考えていません。共存という中ではいろいろな考え方の方がある中で、今後の検討の課題になってくるのかと思っています。

F社:
消費者のお客様の食品に関する価値観とか思考が多様化していますので、プラントベースドフードもその選択肢の一つと考えています。プラントベースドフードということを前面には出してはいませんが、定義からするとプラントベースドフードに当たる商品を、お客様に喜んでいただける商品の一つとしてすでに販売しています。
ただ、プラントベースドフードという商品を発売したいということではなくて、卵と牛乳のアレルギーを持つお子様に食べさせたいというところから開発が始まったプリンや、アーモンドを日本に輸入した最初のメーカーということもありまして、アーモンドをもっと広めたいというところからアーモンド飲料を作って、結果的にプラントベースドフードに当てはまるというような状況です。
一般社団法人Plant Based Lifestyle Labという業界団体が2021年に設立され、こちらに参画しています。お客様にプラントベースドフードについて正しく認識してもらいたいという思いから、企画基準づくりに参加していろいろな企業と討議をしています。
この団体でプラントベースドフードについて調査を実施したところ、若い方の興味度合いは高く、一生懸命取り組んでいたり、環境のことを考えて詳しかったりするのですが、さまざまな年齢層で見たときになかなかまだ理解が追いついていなかったり、言葉自体を知らない方もたくさんいるということがわかりました。コミュニケーションをどうやってとっていったらいいのかということも検討しています。地道にコミュニケーションをとっていくことが正しいプラントベースドフードの普及にもなりますし、さまざまなニーズに対応していけると考えています。