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第104回 国内外の酪農乳業の持続可能性に向けた取り組みと課題について

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第104回 国内外の酪農乳業の持続可能性に向けた取り組みと課題について
日時
2022年3月28日(月)14:00~
会場
乳業会館3階 A会議室
講師
一般社団法人Jミルク
生産流通グループ 課長
関 芳和
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
元 毎日新聞社記者 今井 文恵
消費生活コンサルタント 鷺 仁子
科学ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞社 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー広報担当
酪農・乳業専門紙記者
日本乳業協会:坂口専務理事、本郷常務理事他
【内容】
持続可能な産業の構築が世界でも重要課題となっており、酪農乳業界もその対応に全力を挙げている。日本でも、ミルクサプライチェーンの特性を踏まえて、生産者・乳業者が一体となった取組みを推進している。また、フードシステムの変革には、企業だけではなく消費者の理解と行動変更が必須で、そのための、エビデンスに基づく正しい情報提供も必要となってくる。そこで、今回は酪農乳業界における課題と現在の取組みについて、一般社団法人Jミルク様からお話しいただき、日本乳業協会から乳業としての取組みについて説明し、意見交換を行った。
出席者

酪農乳業の持続可能性に向けた取り組み

持続可能な取り組みとは、社会へ酪農乳業がどう貢献していくのかということであり、しっかりご理解いただきながら私たちも一からやっていくことになります。
これからJミルクが国内の酪農乳業関係者の皆様と一緒にやろうとしてる具体的な取り組みや、世界の酪農乳業の取り組みなどをご紹介させていただきます。

生産者・乳業者・牛乳販売店で構成されているJミルク

生産者・乳業者・牛乳販売店で構成されているJミルク

初めにJミルクの組織についてです。
Jミルクは、酪農・生産者団体と、日本乳業協会を初めとした乳業関係の団体、さらには牛乳販売店の団体による、生産・処理・販売のサプライチェーンを構成している3つの主な組織が会員となっていただき組織運営をしています。このほか、都道府県の牛乳を普及する団体、国際関係の事業を推進する企業・団体、こうした方々の協力のもと、酪農乳業や牛乳乳製品の価値を高め、さらには共通課題の解決に貢献するための組織です。

日本のミルクサプライチェーン

日本のミルクサプライチェーン

酪農家から、農協を通して、指定生乳生産者団体が生乳を販売していますが、この乳業メーカーに売る指定団体がJミルクの会員となっています。したがって、Jミルクが直接酪農家の方々や都道府県の地域の農協さんと直接やりとりをすることもなく、地域ブロックの団体、もしくは全国の団体が直接会員となっていただいて、このミルクサプライチェーンの課題解決に向けた議論等を進めているところです。
生乳の販売量のうち指定団体のシェアが95%で、酪農家さんが直接メーカーに売るのではなく、指定団体を通して生乳販売するというのが日本の特徴です。
一方、海外の場合は、農協自体が非常に大きい乳業メーカーであるということで、直接生乳を買い入れている例が非常に多く、こうしたところは生産者と乳業者が一体となったサスティナビリティに対する取り組みというのが一歩先に進んでいるように感じます。日本にはこういった生乳流通の特徴を踏まえて、取り組みを推進していく必要があります。

酪農乳業の持続可能性をめぐる国内外の動向

酪農乳業の持続可能性をめぐる国内外の動向(概要)

2015年は国連で2030アジェンダが採択されてSDGsの目標ができましたが、翌年には酪農乳業の国際組織である国際酪農連盟(IDF)が酪農セクターのSDGsということでロッテルダム宣言を採択します。これは、社会・経済・環境・栄養面に配慮した取り組みを進めていこうということで、日本は翌2017年に署名しています。
こうしたことを受けて、日本ではJミルクが2018年から持続可能な産業を目指すための行動計画を戦略ビジョンとして提示し、この行動計画に基づいて酪農乳業の取り組みを推進しようとしているところです。日本の政策では、みどりの食料システム戦略が昨年5月に示されましたが、海外では、アメリカ、EUなども持続可能な取り組みを政策に取り入れ、特に環境を中心とした取り組みが活発化しています。

酪農乳業におけるSDGsに関する取り組み例

酪農乳業におけるSGDsに関する取り組み例

SDGsの場合は「社会」「経済」「環境」この3つの領域において「果たすべき役割・貢献していること」と「今後の課題」の2つに分けています。
1つ目の「社会」では、まず基本的なことで、牛乳乳製品を通して必要な栄養を国民の皆様に供給をしています。さらには、酪農現場では酪農教育ファームといった教育活動も行われています。こういった社会貢献活動がある一方、今後の課題としては、女性がさらに活躍できる環境を作る、農薬・抗菌剤を低減して健康に貢献する、さらには自然災害への備えと対応といったところで、これは強靭性のところにつながると思いますが、大規模災害等も非常に増えているので、こうしたところでどうやってミルクサプライチェーンを維持していくかということもしっかり考えていかなければいけないと思います。

2つ目の「経済」です。これはもちろん産業の成長のほか、地域での雇用の創出、さらには外国人材の受け入れ・共生や、スマート農業といったものには既に貢献していると思います。今後は、こういった産業を維持・発展させていくために、担い手・労働力をどう確保していくのか、労働環境をどう改善していくのか、さらには、最近よく言われているアニマルウェルフェアをどう高めていくのか、対応していくかというところが課題になっていると思います。

3つ目が「環境」です。まず「果たすべき役割・貢献していること」では、循環型農業における堆肥の活用、畜産物の堆肥化と有機物の有効な活用が有機農業を推進します。さらには、場所によってはメタンガスを活用した再生可能エネルギーを作っているほか、人が食べられない食品残さ、いわゆるエコフィードを使って食品に変えています。今後の課題では、温室効果ガス、特に牛の消化管から排出されるメタン、こうしたものにどう対応していくのか。日本独自のものとしては粗飼料と呼ばれる乾牧草のほかに配合飼料、トウモロコシなども輸入にかなり頼っています。こうした海外への依存をどう低減していくのかといったことが課題として挙げられます。

それぞれ貢献していることと課題を挙げましたが、欧米では小麦を中心とした食文化になるかと思いますが、日本の場合は米、米飯が中心になっていると思います。こうした食文化などを踏まえながら、持続可能な社会づくりに酪農乳業がどう貢献していくのかを、生産者の皆様、乳業者の皆様、さらには流通関係の皆様や消費者の皆様と一緒になって構築していく必要があると考えています。

SDGs・エシカル消費に関連する言葉の認知度

SDGs・エシカル消費に関連する言葉の認知度(2021年度一次調査)

Jミルクで「牛乳乳製品に関する食生活動向調査」というのを毎年実施しており、その中で、昨年10月に1万1500人を対象に、SDGsとかエシカル消費に関する言葉の認知度を調べた内容です。結果を見ていただくと、「ベジタリアン」とか「SDGs」はかなり高く、SDGsは75%ぐらいですが、ここ3年、2年ぐらいで50%を一気に超えてきている状況です。
このほか「ビーガン」の認知が高まってきていること、畜産と関係する部分でいえば「アニマルウェルフェア」は大体3割ぐらいの方しかまだ認知されておらず、海外に比べると日本はかなり低い傾向です。

SDGs・エシカル消費に関連する要素への優位性

SDGs・エシカル消費に関連する要素への優位性(2021年度二次調査)

先ほどの調査をより深掘りするために実施した二次調査の結果です。動物性食品と植物性食品が対で言われることがよくありますが、動物性食品、牛乳乳製品がどういう印象なのか、植物性食品がどういう印象なのかを聞いたところ、牛乳乳製品に関しては「生産者を守る」とか「社会・福祉に貢献している」といったイメージがどちらかというと強く、環境負荷を少なくするという部分では植物性の方が高めに出ています。それは報道などを見てもこういった結果がご理解いただけるかと思いますが、牛乳乳製品でいえば、環境負荷へのイメージを変えていくことが今後の活動のポイントになると考えています。
また年末年始の生乳需給の話題のなかで、食品ロス、廃棄=捨ててはいけないという意識を消費者はかなり強く感じているところもあります。こうした食品ロスを低減する取り組みのような短期的な課題に関しても、貢献できることがあると考えます。

動物性食品・植物性食品/今後の購入や利用の意向

動物性食品・植物性食品/今後の購入や利用の意向(2021年度二次調査)

動物性食品・植物性食品を今後増やしたいのか、減らしたいのか、といった調査結果です。どちらかというと植物性の方を増やしたいと思っている方のほうが多いという結果です。これは恐らく、環境負荷の話が、先ほど植物性の方が多かったというところもあるかと思いますし、スーパーマーケットの棚を見ても、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクなどが既に非常に多くなってきている印象があります。
こうした流れの中でJミルクは、酪農とか牛乳乳製品の価値をしっかり伝えることによって、さらに消費者の方により牛乳乳製品を選択していただけるような情報発信をしていく必要があると思っています。

持続可能なフードシステムの実現へ世界の酪農乳業との連携

持続可能なフードシステムの実現へ 世界の酪農乳業との連携

ここまで国内での調査結果等を説明していきましたが、この後は海外で、特に環境に関してどんな取り組みが行われているのかを紹介します。
2021年は、このSDGsを飛躍させる10年として、フードシステム・環境をめぐる国際会議が立て続けに開催されました。2021年の9月にはニューヨークで、Food Systems Summitが行われました。Food Systems Summitでは、食料をどう確保していくのかというほかに、環境にどう配慮するか、社会貢献をどうしていくかが主なテーマとして開催されました。この後すぐ、イギリスでCOP26、環境のためのサミットが行われています。こうした国際会議で、世界の酪農乳業の団体では酪農乳業の価値を伝えるために、学校給食での牛乳乳製品の貢献、さらには、この「デーリー・サスティナビリティ・フレームワーク」(DFS)における酪農の持続可能性を高めるための枠組み、さらに「ネットゼロ・低炭素酪農への道筋」を宣言し、さらに「アフリカに栄養を与える酪農」、を伝えることによって、酪農乳業の価値を最大限生かすような解決策を各国で検討するように求められ、日本でも、食品企業や団体が自らの取り組みをコミットメントとして出しています。
酪農乳業の分野においては、このIDFとGDPという組織を中心に、各国の関係者が連携して、特に環境への対応などを進めています。COP26ではメタン削減の枠組みが出てきていて、炭素クレジットという議論も進められてきています。酪農は炭素クレジットを比較的出しているということであれば、削減すればその分が価値につながってくるわけでして、こうした新しい分野を考えていく必要があります。
また12月には東京栄養サミットが開催されました。栄養と環境に配慮した食生活というのが日本の食のすばらしさですので、こうしたものをしっかり世界に発信していくことも重要です。日本の食を形成している中の一つとして、牛乳乳製品の役割は非常に大きいものですので、これはまた後ほどの資料でこうしたコンテンツ等もご紹介させていただきたいと思います。

酪農乳業ネット・ゼロへの道筋宣言文

酪農乳業ネット・ゼロへの道筋 宣言文(GDP)

世界の酪農乳業ネット・ゼロ、温室効果ガスを削減する世界の酪農乳業の枠組みを作りました。世界上位20社のうちの主なメーカー11社を初め、25の国・地域から85の主要組織が、このネット・ゼロの取り組みに関して支持を表明しています。日本では大手乳業3社のほか、日本乳業協会、Jミルクの5組織で、こうした枠組みを日本でも推進していくこととしています。
「酪農乳業ネット・ゼロへの道筋の6つの基本方針」として、牛乳乳製品のGHG排出時の原単位を低減しいく、炭素の吸収源を保護していく、さらに、酪農の飼料関係、堆肥の管理、エネルギー管理といったしっかり改善していこうというものを6つ掲げ、世界の関係者が一体となって、こうした環境対策を講じていくことを2021年に宣言しました。

酪農家の持続可能な取り組みに対する消費者の意向

酪農家の持続可能な取り組みに対する消費者の意向

こうした世界の取り組みが進められていく中で、デーリー・サスティナビリティ・フレームワーク(以下DFS)という組織で国際的な酪農乳業のサスティナビリティに関する枠組みをつくっています。DSFでは安全性、労働環境、温室効果ガス、廃棄物といった世界共通の改善していくべき11個の評価項目があり、酪農家や乳業メーカーが取り組みます。こうした評価項目を日本と欧州の消費者がどの項目の優先度を高く考えているかの意向調査を実施しました。
11項目のうち日本の消費者の評価が高かった順で並べています。日本で一番評価が高いのは、「生乳の品質と安全性の確保に取り組む」というところで、安全にかなり志向が寄っているというのが日本の特徴です。2つ目が「労働環境」ですが、3つ目の「温室効果ガス」は各国ともに非常に評価が高くなっています。日本は特にこの1位、2位、「安全性」と「労働環境」といったところに非常に関心が高い結果となりました。
海外では「生物多様性」や「アニマルウェルフェア」「水」の評価が高くなっている傾向で、酪農の取り組みへの意向に日本と海外の消費者の考えが異なることが、この調査結果で確認できます。
この11の項目に日本の生産者がどういったことを大切に思われているかを調査し、消費者や生産者の考えを組み合わせて、今後の持続可能な取り組み、何を重点的に取り組まなければいけないのかの検討を進めて参ります。