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第90回 食物アレルギーの基礎知識

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第90回 食物アレルギーの基礎知識
日時
平成29年8月28日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館3階A会議室
講師
国立病院機構相模原病院臨床研究センター
副センター長 海老澤元宏
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
食卓プロデューサー 荒牧 麻子
毎日新聞記者 今井 文恵
ジャーナリスト 岩田 三代
消費生活コンサルタント 神田 敏子
評論家・ジャーナリスト 木元 教子
作家・エッセイスト 神津 カンナ
ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当
乳業協会:田村専務理事、本郷常務理事他
専門紙記者
【内容】
今回は、委員の皆様からご要望のあった「食物・乳アレルギー」について、長年、小児アレルギー疾患、特に食物アレルギーの医療と研究に従事されてこられた第一人者であり、著書も多数ある海老澤先生に、乳幼児期にみられる食物アレルギーは何故起こり、どの様な治療を行い、日頃の食生活では、何に注意すべきか、また「経口免疫療法」という研究で「食べさせないこと」から「できるだけ食べさせること」へ食事管理の重点や治療が変化していることなど、興味深いご講演をお願いした。
  • 出席者
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【 要旨 】
アレルギー反応は異物を撃退しようとする人体の免疫反応のひとつで、花粉や食物は人体に有害ではないが、過剰に防御反応すると体内に原因物質となる「IgE抗体」を作り、これに花粉や食物の成分である特定の蛋白質が付くことで、ヒスタミンなどの物質が出て、じんましんや呼吸障害などのアレルギー症状を発生する。重篤化しアナフィラキシーショックにより死亡することもある。消化・吸収機能が未成熟な乳幼児の発症率が高い。原因物質の食物は、鶏卵・牛乳・小麦・ピーナッツの順となっており、「誤食を回避するアレルギー表示」が重要である。保育園・幼稚園や学校などでは、学校給食における食物アレルギーに対して配慮や注意が払われている。また原因物質の摂取だけでなく、日々の体調や運動による疲労により症状悪化する場合がある。アレルギーの対応として、原因物質と発症する量を確認する「食物経口負荷試験」や、少量ずつアレルギー反応を起こす食物を摂取して免疫を作る「経口免疫療法」(現時点では一般診療扱いではなく、研究段階)などがある。避けすぎることで食物アレルギーのリスクや治り難さにつながるため、摂取できるものは少しでもよいから摂っていくという方向での取り組みが一般的になってきている。

最近食物アレルギーが非常に増え、社会問題となっている。石坂公成先生が1966年にアメリカでIgE抗体を発見し、それからアレルギーの解明が進んだ。さらにIgE抗体が皮膚とか粘膜に存在するマスト細胞に付くことを発見した。IgE抗体は人の体の中で作られ、IgE抗体が卵のタンパク質や、牛乳のタンパク質に対して作用することによって食物アレルギーは起こる。
食物アレルギーは1960年位にはほとんどなかったが、2000年以降相当増えている。
多分1980年代位から日本でも食物アレルギーが増え、この30年の間に一気に増えている。
世界アレルギー機構(WAO)という学会が作られたのが1952年で、第二次世界大戦後に先進国の中でアレルギーが問題になった。最初に問題になったのは、気管支喘息である。次に問題になったのは、アレルギー性鼻炎や結膜炎、花粉症、アトピー性皮膚炎である。アレルギーの一番強烈な反応をアナフィラキシーと言い、食物で最も多く起こる。あとは薬とか蜂毒とか、最近のヒアリでも増えていると言われている。

アレルギーのしくみ

IgE抗体と原因物質のアレルゲンが結び付くと、体にあるマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンが出て、じんましんを起こし皮膚がかゆくなったり、鼻水が出たりする。
アレルギーを起こすには条件があり、IgE抗体を人が体の中に作るかどうかということが第一である。次の条件としては、原因物質が体の中に入ってきて、IgE抗体と巡り会って、この細胞が活性化するかどうかということである。結膜炎の場合、アレルギー性の結膜炎や鼻炎というのは、原因物質が目や鼻に直接入ってくることによりかゆみが生じる。食物の場合には口から入って、消化・吸収されて入ってくるので、普通のアレルギーよりも若干複雑な経過をたどる。
IgE抗体というのは、昔は問題にはならなかった。そもそもは寄生虫とか、ダニとかを体から排除するシステムだったと考えられている。第二次世界大戦後に寄生虫がいなくなり、身のまわりのダニやばい菌と体が戦わなくなってからアレルギーが増えてきた。免疫という本当は体を守ってくれる働きが、逆に悪く作用して自己免疫性疾患という病気が生じる場合もある。例えば、女性に多いSLE(全身性エリテマトーデス)とか、リウマチとかも、元々は体を守るものが、自分の体に対して免疫反応を起こすことで、自己免疫性疾患になる。本来有害ではない花粉や食物に反応して、体にとって不都合なことを起こす。これをアレルギーと言う。

皮膚テスト(プリックテスト)

一番簡単にアレルギー反応を診ることができるのは、皮膚テストである。原因物質に対するIgE抗体を持っているかどうかを調べるために、例えば卵、ほこりや花粉のエキスを皮膚に垂らして、針で少しだけ皮膚を傷つけると、原因物質が体の中に入ってきて、IgE抗体と原因物質が結び付いて、蚊に食われたような反応が15分から30分ぐらいで起きてくる。これがIgE抗体を持っているということを調べる一つの方法である。

小児アレルギー疾患の有症率の推移

食物アレルギーは子どもに圧倒的に多く、今、日本では卵アレルギーは10人に1人ぐらいの赤ちゃんが持っていると考えられている。牛乳アレルギーは卵の半分より少ない。100人の赤ちゃんがいたら4人ぐらいである。
乳児が一番多く、小学校に入るまでの保育園のお子さんを対象にすると、大体5%ぐらいである。次に、学童で小学校以上の方では2.6%、1学級が40人だとすると、クラスに1人ぐらい食物アレルギーの学童がいるという2004年の調査がある。成人に関しては調査が十分でないが、多分1~2%と考えられる。

アレルギー疾患羅患数

アナフィラキシーは、子どもはほとんどが食物で起こる。大人は蜂毒とか、あとは薬物によって起こす人が多い。2004年の文部科学省の調査では、約670人に1人が学校に入る前にアナフィラキシーを経験したことがあるというデータがある。
食物アレルギーの多くが、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎と合併して見つかることが多い。だから湿疹がある方というのは、食物アレルギーを発症するリスクが高いと考えられている。あとは食物アレルギーやアトピー性皮膚炎がある方は、後々気管支喘息も発症し、さらにその後にアレルギー性鼻炎を発症してくると考えられている。
赤ちゃんは、アトピー性皮膚炎から食物アレルギー→喘息→アレルギー性鼻炎というように、アレルギーの病気が移り変わってくる。これはアレルギーマーチという言葉で示されることもある。
今若い人たちで、血液検査や皮膚テストをすると、ダニやスギ花粉に対してIgE抗体を持っている人は、2人に1人位である。アレルギーになる人が特殊だと思う方が結構いるが、今は日本人の若い世代の半分位はこの状況にある。
ただし、IgE抗体を持っていることとアレルギーが発症することは少し異なる。スギ花粉症の人は、多く見積もって30%位で、IgE抗体を2人に1人の人が持っているとしても、さらにその50%ぐらいしか実際にはスギ花粉症ではないということになる。
学校での調査をみると、喘息は日本ではあまり増えていない。アトピー性皮膚炎は逆に小学校以上だと減ってきていて、アレルギー性鼻炎や結膜炎はまだ増加傾向にある。
今日のテーマである食物アレルギーは、前回の2004年から9年間後の2013年に全国の学校で調査をした。その結果、アレルギーは2.6%から4.5%に増えており、学校に入るまでにアナフィラキシーを起こした人は0.14%から0.48%と9年間の間に3倍になっていた。したがって、食物アレルギーは全体的に人数も増えていると考えられている。

食物アレルギーにおけるアレルゲンの吸引と症状出現

食物アレルギーの原因物質は、最初、口の粘膜を経由して入ってくる。最近果物や野菜などを生で食べると反応する人が結構いる。口腔アレルギー症候群(OAS)と呼んで、元々は花粉に対して反応を持っている人が、例えばリンゴ、ナシ、モモ、ブドウ、これらはバラ科の果物で、バラ科の果物はシラカバの花粉やハンノキの花粉やブナの花粉など木の花粉と形が似ている。本当は花粉症を発症するが、果物を食べると口の中で、似たものが入ってきたと、体が誤作動する。スイカやメロンでもある。その場合、ブタクサの花粉やイネ科の花粉の花粉に反応して起きてくる。
生で食べると問題を生じるが、リンゴアレルギーの人は焼きリンゴにすると食べられる人が多い。生だけが口の粘膜で反応し、早く症状が出る。しかし、原因物質は熱に弱く、果物も加熱したり、加工したりすると問題なく食べられる場合が多い。
どうして口の中の症状だけにとどまるかというと、消化に弱いのが理由である。すなわち、口から入って食道を通って胃に行って十二指腸に行って、いろいろな消化酵素に混ざり、胃ではペプシンというタンパク質を壊す酵素が出て、原因物質を壊す。リンゴは口の中では症状が出ても、原因物質が形を保って腸まで辿り着けない。それで口腔粘膜でしか症状が出ない。
牛乳の原因物質としてカゼインがよく知られている。カゼインの他にβラクトグロブリンなどの乳清タンパクもアレルギーを起こす原因物質である。特にカゼインという物質は、口から入って胃に行ってペプシンに接触しても壊れない。だから、十二指腸をさらに通って、小腸からも吸収されて、血液に乗って全身巡り皮膚や肺に到達したりする。それでアナフィラキシーとかが2時間以内に起きてくることになる。
2012年12月に調布で、小学校の給食でチヂミという韓国料理にチーズを練り込んだものを食べて、アナフィラキシーで亡くなった事故があった。食べてから30分位して非常に具合が悪くなった。牛乳に換算すると5ml位で実際にアレルギーからアナフィラキシーを起こして亡くなった。
原因物質の側から見ると、熱や消化酵素に対して不安定であることが、アレルギーを起こす強弱に関する一つの要因である。卵の中にも熱に不安定な物質があり、オボムコイドという物質が知られている。ピーナッツやクルミの中の貯蔵タンパク物質も知られている。
何故子どもに多いのかを考えてみると、子どもの消化する能力が大人並になるのは3歳位で、胃酸のpHが成熟してくるのが3歳以降である。ユッケを食べたO-157の感染症は、大人と子どもが同時に食べても必ず子どもが重篤化する。胃酸や成熟度が足りないことが関係する。要するに殺菌や消化が影響しているのである。
昔から子どもには、3歳位になるまでは生ものを食べさせてはいけないことが、当たり前の常識だった。おばあちゃんからお母さんに伝わって、守っていたのが、最近はあまり伝承されていない。

臨床型分類

乳児の食物アレルギーの中心は即時型と言って、皮膚にじんましんが出たり、アナフィラキシーと言って、非常に苦しくなるものが多い。一般的に食物アレルギーでは、赤ちゃんの時に湿疹が先行して出てくるが、まだ本人が一度も原因物質を食べていないのに、例えば卵とか牛乳に対してIgE抗体が作られることが起こる。
生まれたばかりの赤ちゃんの消化管アレルギーの場合には、乳児用調製粉乳が原因としてあげられるが、IgE抗体は関係してこない。下痢や血便が500人に1人ぐらいの赤ちゃんに起きる。新生児期に特に問題になるので、産婦人科に入院している時に見つかることが多い。
子どもの果物アレルギーは、小さな子どもだとバナナのアレルギーが多く、学童期位になるとキウィフルーツのアレルギーが多い。それらは花粉とか関係がなく、純粋に果物に対して反応を獲得する人が多い。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn)という病気もある。日本では小麦や麺とか、あとはパンを食べて、食べただけでは何ともないが、食べた後に2時間以内位に激しく動いたりするとアレルギーが起きてくるという病気がある。中学生とか高校生に多い。あとは甲殻類や果物類も原因として起こる場合がある。これは診断がしばしばつかないことがある。体調が悪かったり、薬を飲んでいたりして起きてくるとか、症状の再現性がないことがある。あとは運動が加わったり、とても体が疲れていたりとかの状態も影響してくるので、なかなか診断がつかず繰り返すアナフィラキシーの原因になることもある。赤ちゃんから子どもに多いのは、卵・牛乳・小麦で、大人に多いのは、エビ・カニ・魚・果物・そば・ピーナッツである。子どもは治りやすいが、小学生以上から大人の方が発症した場合は治りにくい。