MEMBER

第69回 機能性物質による被ばく低減化 ~ラクトフェリンを中心にして~

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第69回 機能性物質による被ばく低減化 ~ラクトフェリンを中心にして~
日時
平成24年2月13日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館 3階 A会議室
講師
財団法人放射線影響協会 国際情報調査室部長 西村 義一
【内容】
第67回68回に続き、「放射性物質」に関連したテーマの3回目として、「機能性物質による被ばく低減化」に関し、多くの知見をお持ちの、財団法人放射線影響協会の西村義一様に、最新の研究情報も含めた現状をご講演いただいた。特に我々乳業者にとって大いに期待できる、機能性乳成分である「ラクトフェリン」の放射線防護効果についての知見および今後に関しご紹介いただいた。
出席者
- 1.放射能の発見とその障害 -
<放射能の発見>

1898年マリー・キュリーはベクレル線の研究を行っている過程で天然ウラン鉱石の中にウランよりも強い光線をもつ元素(ポロニウムとラジウム)を発見し、放射線と名づけた。また、写真を感光する能力を放射能と名づけた。

  • 放射能の発見
    放射能の発見
  • 放射能の発見
    放射能の発見
キュリー婦人の実験ノート(明星大図書館所蔵)
キュリー婦人の実験ノート(明星大図書館所蔵)
イメージングプレートによりラジウム-226と壊変による放射性核種を検出
イメージングプレートによりラジウム-226と壊変による放射性核種を検出
<当時の障害>

キュリー夫人の実験ノートからは、今でもラジウム226の汚染を確認することができる。この頃はまだ放射線の害が分かっておらず、飲食を通じてキュリー夫人もラジウムを摂り込み、白血病で亡くなっている。
また、ラジウムが蛍光を出すため、時計の文字盤にラジウムを貼り付ける作業に多くの女性達が従事していた。筆の穂先を舐めながらの作業であったため、骨癌とか骨肉腫で多くの方が亡くなっている。
放射線の発見以来、影響が分かるようになってきたのはそれほど昔のことではない。

<どこにでもある放射線>

人類は大昔から放射線を浴び続けている。生命の進化はある意味で放射線との闘いでもあった。当時は現在よりも放射線場の強いところで人類も恐竜も過ごしている。放射線の害は、放射線による水分解により起こる。人体の70%くらいが水分であるため、放射線が当たると水分が電離を起こし活性酸素が発生する。この活性酸素がDNAを傷つけて修復できなかった場合にいろいろな障害が出て来ることが分かってきた。

  • 人類は太古の昔から放射線を浴び続けている
    人類は太古の昔から放射線を浴び続けている
  • Newton 2008年10月号
    Newton 2008年10月号

また、我々は大地から、さらに色々な食品から既に放射線を受けて生活している。
世界平均で2.4mSv/年、日本は建物の構造、地質の影響によりやや低くなっている。世界ではイランのラムサール、ブラジルのガラパリ、インドのケララ、中国のヤンジャン等で生活している人々は、高線量場で生活しているが、放射線によるがん等が増えているということは疫学調査からは言えない。
ある程度の放射線を受けても回復する能力を進化の過程で身に付けているということが推測できる。

高放射線地域の年間大地放射線量(UNSCEAR 2000)
高放射線地域の年間大地放射線量(UNSCEAR 2000)
- 2.今回の原発事故による影響 -
<事故による放射性物質の種類と影響>

今回の原発事故により、原発から放射性プルームという雲のようなものが気流に乗って流れてきて、これを飲食物から取り込めば内部被ばく、外から受ければ外部被ばくとなる。

問題となる主な放射性核種

今回の事故により問題となる主な放射性核種は、
・放射性ヨウ素-131(半減期8日)
・放射性セシウム-137、134(137:半減期30年、134:半減期2年)
・ストロンチウム-90、89(90:半減期29年、89:半減期50日)
であり、これらを大量に取り込んだ場合に使用する薬物としては、日本では3種類しか厚生労働省の認可を受けていない。

<放射性ヨウ素>

●放射線ヨウ素は甲状腺に集積し、甲状腺がんの元になると言われている。
●ヨウ素剤の適用(希釈):WHOは19歳未満、予測線量10mSv以上での適用を推奨。
●チェルノブイリ事故後、ポーランドで約90%(一千万人)の子供にヨウ素剤を服用させた。
⇒ポーランドで有意な小児甲状腺がんは観察されていない。
ただヨウ素剤の効果かどうかはまだ解析されていない
⇒低ヨウ素地帯のベラルーシ、ウクライナでは甲状腺がんが多く発生している。
ポーランドはバルト海に面しており、内陸ほど低ヨウ素地帯ではない。
●日本は四方が海で、日常的に海産物から安定ヨウ素を多く摂取しており、ICRPの代謝モデルで放射性ヨウ素による被ばく線量計算をすると過大評価になる。

<放射性セシウム>

・全身、とくに軟部組織に分布する。
・排泄促進剤としてプルシアンブルー(吸着)がある。

  • ヨウ素剤
    ヨウ素剤
  • セシウムの促進剤:プルシアンブルー
    セシウムの促進剤:プルシアンブルー
【ゴイアニア事故】

ゴイアニア市内にあった廃病院に放置されていた放射線治療用の医療機器から放射線源格納容器が盗難により持ち出され、その後廃品業者などの人手を通しているうちに格納容器が解体されてガンマ線源のセシウム137が露出。
光る特性に興味を持った住人が接触した結果、合計250人が被曝し、そのうち4名が放射線障害で死亡した。
40人以上にプルシアンブルーを1日10g強制的に飲ませ、一定の効果が得られた。
今回の福島第一原発事故の様なレベルでは副作用も考えると殆ど効果がないと考えられる(プルシアンブルーは30mSv以下では治療利益がない、とされている)。

<放射性ストロンチウム>

・NRC(米原子力規制委員会)やIAEA(国際原子力機関)では大量に放射性ストロンチウムを取り込んだ場合、リン酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルギン酸ナトリウムなどの投与を考慮するように勧告している。
・核実験が盛んなころ、放射性ストロンチウムに関して多くの研究がなされており、海産生物などのOR値(Sr-Ca観察比)が調査された。
海産生物のOR(観察比)=(海産生物中のSr/Ca比)/(海水中のSr/Ca比)
表に示すようにストロンチウムとカルシウムが同時に存在した場合、多くの海産生物はカルシウムを多く取り込む傾向がある中で、昆布、わかめ等の褐藻類は逆にストロンチウムを多く取り込む性質があることが分かった。この性質を使って放射性ストロンチウムの排泄を促進できないか、褐藻類の粘質多糖であるアルギン酸ナトリウムを使った研究が一時進んだ、という経緯がある。
1965年のNATUREのデータを下図に示す。
ヒトで放射性ストロンチウムに対するアルギン酸の排泄促進効果を確かめる実験をしている。アルギン酸はストロンチウムと不溶性の塩を作るため、ストロンチウムが体の中にあった場合はアルギン酸と結合してストロンチウムを体外に排泄を促進させるものと考えられている。

海産生物のOR値 OR=(海産生物中のSr/Ca比)/(海水中のSr/Ca比)
海産生物のOR値
OR=(海産生物中のSr/Ca比)/(海水中のSr/Ca比)
ヒトにアルギン酸を投与した後、20分後放射性ストロンチウムを投与したときの体内残留量の変化
ヒトにアルギン酸を投与した後、20分後放射性ストロンチウムを投与したときの体内残留量の変化