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第105回 SDGsの伝え方
~学校が期待すること~

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

もっと生産・流通の段階で食品ロスが発生しているところに射程を広げたいなと思っているので、例えばこんな授業もしました。

「キュウリは育てる過程でよく曲がる野菜です」

キュウリは育てる過程でよく曲がる野菜です

スーパーに並んでいるキュウリって曲がってなく、真っすぐですよね。キュウリは育てる過程で、風が吹いてちょっとぶつかるとか、水が少ないとすぐ曲がるんですよね。

「スーパーではどうしてまっすぐなキュウリだけだろうか」

スーパーでは、どうしてまっすぐなキュウリだけが売られているのだろうか

「じゃあ、どうしてスーパーのキュウリは真っすぐなんだろうね」と子どもたちと話をしました。子どもたちから「先生、真っすぐのほうが栄養がある」と出て、栄養士の先生に「どうですか」と聞いたら、「いや、曲がっていても同じだよ」と。「それは曲がっていたら嫌だから、買う人がない」、それに近いことですよね。

キュウリ

あと、たくさんの物を運ぶに当たっては、真っすぐのほうがいいそうです。物流です。

キュウリの出荷規格

キュウリの出荷規格

私が調べた範囲ですが、キュウリは出荷規格が結構厳密に決まっていて、曲がり、尻太り、尻細り、傷品というのはスーパーで販売されにくいそうです。

キュウリのA品

A品B品

やっぱりA品だけがスーパーで販売されていくので、結構な量が私たちが食卓で見る前に廃棄されています。

「曲がったキュウリは捨てるしかない?」

曲がったキュウリは捨てるしかない

こうなると、子どもたちも何かいい方法はないかなと考えます。

キュウリで食品ロスを考える

キュウリで食品ロスを考える

6年生の子どもたちと考えている場面ですが、子どもたちは曲がっていてもいいから食べるとか、スズムシの餌にするとか、途上国に食料支援するとか、あと何か新しい食べ物につくりかえるとか、そういうアイデアをたくさん出してくれました。

子どもの実感や手ごたえからSDGsへ

子どもの実家や手ごたえからSDGsへ

この授業は何のためにやったのか、どういうことを大事にしたいのかということは、先ほどお話したSDGsのために何ができるかとか、食品ロスをなくすために君たち何ができるかということよりも、もっと子どもにとって具体的で、かつ問いが持たれるもの。どうしてスーパーのキュウリって曲がってないのかなということから、そのことに真摯に向かい合っている社会の人たちと出会っていくことが、結果SDGsの17番のパートナーシップを実現する。つまりSDGsの17のパートナーシップを実現するために授業を考えるのではなくて、子どもにとって実感や手応えがあるものを積み上げていくと、結果SDGsとして意味があるということです。

曲がったキュウリの活用:その1 料理の工夫

曲がったキュウリの活用:その1料理の工夫

これは参考として授業で使った写真です。クックパッドがこうしてスムージーのレシピにしたり。

学校給食への活用

学校給食への活用

富山県の栄養教諭の先生は、少し手間はかかるけど、曲がっていても乱切りにして入れてしまえば問題ありませんよと教えてくださったり。

学校給食への活用

学校給食への活用

この写真を見せたときに、子どもたちは「栄養士の先生、やります?」というように栄養士のほうに目を向けていました。栄養士の先生も「いや、でもこれは結構手間がかかるよな」と。たくさんの給食を出すとか調理員さんの数とか、そうなってくるとなかなかやれないこともあるんじゃないのかなというのを、この時点では扱えなかったんですが、中学校で授業をやったときに扱いました。
スムージーにするというアイデアが出たんですけど、中学生は「でも、毎日スムージーを飲む?」というように、自分が生活者として問いを持っているんですよね。だから、新しく何ができるかということを考えている。

曲がったキュウリの活用:その2 販売の工夫

曲がったキュウリの活用:その2販売の工夫

子どもたちにウケたのはこれでした。形が悪い大根に顔を描いて、大根が売れちゃいましたと。ただ、これはネットで先生が拾ってきた写真だし情報だから、本当にそうかどうかはまた別の話ですよ、でも、こういうことができるんじゃないの、あなたたちが考えたことは決して無理なことでもないし、無駄なことでもないし、意味のないことでもないよという話をするためにです。

曲がったキュウリの活用:その2 販売の工夫

曲がったキュウリの活用:その2販売の工夫

現に札幌のコープでは「ぶこつ野菜」というブランドで販売もされています。

規格外品を有効活用すると規格品まで安くなる!?

規格外品を有効活用すると規格品まで安くなる?まったく新しい八百屋「旬八青果店」

これは旬八さんの青果店です。こちらの社長は規格内のキュウリを安くしてもらって仲卸から買うから、ついでに規格外もつけておいてもらっていいですよと販売されています。

旬八の取り組み 旬ムージー

旬八の取組

規格外ってやっぱり困るんですよね。だから、規格外は引き取るから規格内のものも安くしてねというようにしてスムージーにしたり、子どもたちの考えたとおりになってるという話です。

旬八の取り組み お弁当

旬八の取組

お総菜は、あたりの相場から100円くらい安いとして、上手に販売されています。
このあたりのことは、食ということを切り口に食品ロスということを考えると、それは現にパートナーシップだけでなくて、住みやすい街とか働きがいがあるとかというようなSDGsの他のゴールにも結果としてつながっていくことになります。学校教育の中でいま認知されている言葉でいえば、キャリア教育にもつながります。そういったところにも食は大きな可能性を持っています。

ポップで工夫

超規格外の超ウマい大根

「この大根と出会って確信しました。人も大根も見た目じゃない!!って、超規格外の超ウマイ大根」と書かれていますが、子どもたちは「先生、確かに本屋さんで、ポップを置かれてるとその本を買っちゃうことがありますよね」とか、「本屋大賞受賞とか言われると買っちゃいますよね」と、反応してくれています。

キュウリで食品ロスを考える

キュウリで食品ロスを考える

これがそのときの授業の様子です。今「おいしそう」から書いてあるのが、どうしてスーパーには真っすぐなキュウリしか並んでないかなということに対して子どもたちから出た考えです。

「きづき」をより豊かに引き出すには

「気づき」をより豊かに引き出すには

私は授業をする際に、また食育を考えて実践することをお手伝いする際に、“気づく”ということを大事にしてきました。最も“気づく”のは体験であることは間違いないです。育てたニンジンは食べます。子どもたちは「ニンジンはカロテンが入っていてね」と言われてもなかなか食べなくても、自分で育てた野菜は食べます。
その次は「農家の藤本さんが育てた野菜ですよ」と言うと少し食べるというところもあります。つまり、体験とか物語を通して気づきが生まれているんだと思うんですね。給食というのは毎日食べるということだから、それを繰り返すことによってかかわりや深さが生まれてくるから、体験活動としての意味を持っているので、給食とつなげていくということです。

またこれは学校教育の中で食育を進めるにあたっての一つの課題ですけど、「子どもは知らないから教えてあげないといけない」というように考えるんですよね。これが逆になると、「私は食に関して全てのことを知ってないから、子どもたちには教えられない。栄養士の仕事ね」と言って任せてしまうんですね。栄養教諭と授業をしたら、担任はそう振る舞いがちなんです。「今日は、みんなに給食をつくってくれている栄養士の先生に、朝ご飯を食べるとどうしていいことがあるかというのを教えてもらいます。しっかり話を聞こうね。どうぞ」と言った瞬間、もう担任は消えてしまうんですよね。それではまずいという話です。
でも、これはやっぱりそうせざるを得ない状況もあるんですね。子どもから「先生、これどっちがいいんですか」と言われても、私は栄養学の勉強をしてないから聞かれたら困るねと。農業体験のときも同じことが起こったんですね。どうして米づくりをしないのかというと、米づくりをしたときの種もみをえり分ける塩水選のことを子どもから聞かれたら教師の威厳にかかわるから、聞かれなかったらいいから、米づくりはなかったことにすればいいんだ、と一部の先生は考えたんですね。

SDGsも同じことです。SDGsの17のゴールを全て言えて、その中の169のターゲットが全部語れないと子どもの前に立てないと思っている先生もまだいらっしゃるかもわかりません。そうではなくて、もう完全に考え方を変えていくことが大切で、「私はわからないです」から、「でも、知ってる人がいるので、その人に聞こうね」というように、もっと言えば、タブレットを持っていますから、タブレットに聞けばいいんですね。となると、学校のSDGsの取り組み方も大きく変わってきます。

例えば朝ご飯の大切さを教えることは、学校教育で扱ってもほぼ意味がないということが見えてくるんです。なぜかというと、「朝ご飯を食べると、どういういいことがあるんですか」とスマホのSiriに聞けば、Siriが教えてくれますよね。その次が大事なんです。自分にとって朝ご飯を食べることはどういう意味があるのか。私は将来ヒップホップのダンサーになる。ヒップホップのダンサーはどうやら体を動かすだけでなくて食生活も考えているようだから、ああいう人になるために私はどんな食生活をすればいいのかなという問いを持たせてあげて、そこで子どもたちに答えてあげられるような食育ということを考えないといけないと思います。教師としての立ち位置が大きく問われてきているんじゃないかなと思っています。

あとは、子どもに聞くようにするということも大事です。30人いたら30人がSDGsのことを知っているわけではありません。でも知っている子もいます。この濃淡や深さ、浅さというのが昭和のころに比べるとずっと違いがあります。つまり学校が多様性ということをどんどん大事にしてきているから出てきているので、まず子どもに聞いてみましょうということです。その学力観に立つとやはり子どもは有能な学び手なんだということを、私は大事にしてきています。

右の写真は何かというと、緑茶のペットボトルを2つ、封を開けてないのを子どもに見せます。片方だけラベルを外します。そして、「前のスーパーで買ってきたんだけど、AとB、どっちを買う?」と言ったら、みんながラベルをついたほうを買いますと言います。「どうして」と聞くと、「だって、原料がわからない。お茶っぽくない。何が入っているかわからないから、やっぱりラベルはあったほうがいいよ」と5年生が言ってくれたんですね。メーカーが書いてないから信用できない、不安だと。でも、メーカーのところだけバツ(×)をしていますが、「メーカーが載ってないから、ラベルを剥がされると不安だ」と言ったら、反対側の男の子が「いや、先生、最近メーカーも信用できないよ」と言ったんですよね。これはどの時期かというと、企業の偽装が世の中を賑わせていた頃です。つまり、全員が企業の偽装の問題に関心を持っていたわけじゃないんだけど、関心を持っている子は確実にいるんです。だからそれを聞くというか、子どもたちから引き出すということは大事にすると。その意味では、やっぱり身近でないとなかなか引き出せないし、具体的な体験がないと子どもたちはかかわろうともしないところがある。

安心な素材、自然な色にこだわった野菜のクレヨン

安心な素材、自然な色にこだわった野菜のクレヨン

これは昨年の11月に行った授業ですが、お野菜をクレヨンにしている青森の木村さんという女性の方で、絵を描かれていて、自分が好きな絵を表現するのに色を探して、青森ですからリンゴの皮でクレヨンをつくっちゃったらどうかなということで、今、mizuiroという会社を立ち上げておられます。小さな子たちは何でもすぐ口に入れるじゃないですか。安全だということでいろんなメディアに取り上げられました。連絡をして、「別にアドレスも入れなくていいですから使っていいですよ、授業でもどんどん使ってください」と許可をもらいましたので、このようにどんどん使っています。

学習指導要領に位置付けること

学習指導要領に位置付けること

リンゴ以外にもいろんな商品を開発しています。バラエティー番組だったら「おやさいクレヨンはおもしろい」でいいんですが、学校で何かをやるにあたっては、必ず学習指導要領の裏づけがないとできません。もちろんそれを意識して日々授業しているわけじゃないのですが、「楽しいだけでいいの?」「これ学習指導要領の裏づけあるの?」と言われたときに説明ができるかどうかというのが問われていて、つまり、学校の外と一緒に何かをするにあたっては、学習指導要領の位置づけを明確にするということは大事なことです。
おやさいクレヨンの場合であれば、食品ロスを削減するという視点から考えると、4・5・6年生の社会科や家庭科で学習指導要領としての内容が位置づけ可能です。現に食品ロス削減のキャラクターの「ろすのん」を取り上げる授業は、学校教育の中でよくあります。

おやさいクレヨンで食品ロスを考える

おやさいクレヨンで食品ロスを考える:津名東小学校5年生飛び込み授業

これは、授業の写真ですが、左から右で、左の豚とイカと象がいるのは、神奈川県の愛川町がつくっている食品ロス削減のポスターです。市や行政が作ってるものは、教材としてとてもいいですよね。右が、おやさいクレヨンのように捨てられてしまうものをすみずみまで使う工夫。この「すみずみ」というのは子どもが言ってくれた言葉なので書いています。そこに、「かぼちゃのコップ」とか「牛乳パックなど物作り」みたいなことも書いていますね。あるいは「とうもろこしの毛のほうき」とか、あるよなと思うこともあるんですけどね。

自治体のポスターを使用した授業

虹のクレヨン、赤のクレヨン、星のクレヨンなど子どもたちから次々に思った言葉が出てきます

ちょっと具体的な授業の話をすると、授業の冒頭に「○○のクレヨン」と黒板に書きます。子どもたちが「虹のクレヨン」とか「赤のクレヨン」とか、いろいろなことを言ってくれるんですね。授業の最初は、あまり答えが一つで決まってしまうものを問いかけると子どもたちは逃げてしまいますので、エントリーするためにはこういう、わかりやすいことを始めるということが大事です。

担任の先生には「あした、大学の先生とクレヨンの授業をするらしいよ」とだけアナウンスしておいてくださいとお願いしたので、その後、この愛川町のポスターの文字の部分に全部ふせん紙を貼って、「どれから剥がそうか」と言って「先生、これから剥がして」みたいなことをやりとりするんですね。「おっ、この先生って、教えるんじゃなくて、いろいろ聞いてくれそうだな」と思ったら、子どもはこの授業にどんどんエントリーしてくれます。ふせん紙が全部剥がれたときに「ぜんブタべなきゃイカんゾウ!」、「あっ、先生、ご飯のことだ」と子どもがつぶやいてくれました。気づきが生まれた瞬間だと思っています。
でも、冷静な子もいるんですね。「ぜんブタべなきゃイカんゾウ!」というのは食品ロスのことだというのはわかったと、先生の言うように「ろすのん」ということもそこに赤くいるから。でも今日はクレヨンの授業と聞いてるんだけど、クレヨンと食品ロスが何でつながるんだろうねと言う子もいます。