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第88回 食料クライシスの引き金、それは畜産物の激減

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

乳量の推移 乳質の変化

なぜそうなのかということが最終的な問題になるわけです。これはさっきお示しした表ですが、乳量の推移に注目してください。そうすると、この改良開始から配合飼料を多給することによってかなり乳量が増えていきました。それでこれも家畜改良事業団が誇ることなのですが、それまで2.9%だった乳タンパク質が3.2%に改良されました。実際は3.3%ぐらいまで行くのですね。乳脂肪が3.4から3.9%になりました。つまり乳質が大きく改善されたと言うわけです。それで私が言うのは、ここの乳量を増やすために必要な配合飼料が必要。当然これカロリーを含んでおりますから、これを増産するために必要なエネルギー・栄養。配合飼料を多給しなければこんなものはできないでしょうと言うわけです。これが問題なのですね。

畜種別配合飼料 配合資料給与量

乳牛はどうして配合飼料をそんなにいっぱい食べるのかということになるわけですが、実は全部これ家畜改良の結果なのです。いいことは一つもなかったのですね。ですが、彼らはなおかつ良くなるよと言うわけです。こういう問題が日本の畜産には、酪農には含まれております。これをどうにかしない限りは、自給率は絶対に上がりませんし、日本の食糧安保にも結び付きません。こんな牛はね、飼えるものではありません。とてもデリケートで、牛のオーバーワークなのです。ですから、そのうちに必ず牛からの反撃が起こります。

その結果起きたこと

配合飼料依存の酪農になった結果、何が起こったのかです。一つは妊娠しなくなりました。本当に妊娠しないのです。今平均出産回数が3.5回です。かつては8回出産したのです。今は3.5回です。誰でも知っていることですが、妊娠しなければ乳が出ません。乳の出ない牛を飼っていてもしょうがありませんから、廃用にしなければいけません。今、大体3回から4回目で廃用になるのですが、2回、もしくは3回出産して、乳を搾ったらもう廃用という、経済的に見れば非常にマイナスなのですね。8回出産しますと、乳量が多少少なくてもこっちの方が経済的な価値は高いのです。牛というのは大体2年後に出産します。生まれてから2年後。だから満2歳になった時に大体出産するのです。そこは全部費用持ち出しです。それを8回で割るか、3回で割るかによったら、生産費がどれだけどちらが多いかというのは、誰が考えても分かります。8産の方が有利に決まっているわけです。
もう一つはいろいろありますが、乳房炎が多発したのです。とても乳房炎にかかりやすくなったのです。農林水産省が家畜保健統計かな。正確な題名は分かりませんが、家畜共済保険報告というのを出しているのですが、今牛の病気で一番多いのは何かというと、乳房炎なんです。単に乳房炎?って言うかもしれませんけど、実はこれは治療費が大変なものとなり出荷も停止となります。乳房炎になりますと1週間出荷ができません。それに治った後も乳量が減ります、少なくなるんです。また、乳質が悪くなりますから、乳価が下がります。これが実は全部酪農家のマイナス要因になってくるわけです。今、平均的な酪農家は、この乳房炎の治療費というのは、大体年100万円だそうです。それで、どれぐらい多発するのだということになりますが、さっき言った家畜共済の保険で行きますと、年に45万件が乳房炎で治療を受けています。ですから、日本の搾乳牛の半分が、1年で2頭のうち1頭が乳房炎にかかりますよというわけです。それが実は全部酪農家の負担になっているわけです。
それで心配なのは何かというと、乳房炎になって治療ができなくなることがあります。非常に敗血症が起こりやすいのです。それでどういうことになるかというと、少しでも治療が不可能になりますと廃用になります。それが年に2万頭です。1回目のお産であろうが2回目のお産であろうが3回目のお産であろうが、治療不能になったら即廃用です。治療不能になれば、必ずその乳牛は死んでしまいますから。必ず敗血症で死にますから、治療不能になったと判断が付いた時点で廃用にします。つまり少しでも経済的なプラスになるようにということで、廃用にするわけです。それが年に2万頭です。その経済的なマイナスというのは、無視できないわけです。これ全部実は乳牛の泌乳能力がプラスになったことで起こったことです。
昔、4,000kgの時というのは、ほとんど搾乳した後に消毒なんかしなかったのです。ほったらかしで絞ったら絞りっぱなし。今は大変予防に注意しております。消毒をしたりいろいろなことをします。ではどちらの方が乳房炎が多いかというと、実は今です。非常に注意していながら乳房炎が多いのです。昔は何も注意していないのに、なかなか乳房炎にかからなかったのです。それはなぜかということなのです。なぜ乳牛というのは改良するとそんなふうになるのか。そういうことが次の問題になってまいります。

外界とつながる乳腺細胞

これは牛の乳房と関係します。牛というのは四つ乳房を持っています。人間は二つですが牛は四つ持っています。それで全く違うことがこの乳頭なんです。人間の乳頭と牛の乳頭というのは全く違います。それはどういうことかというと、同じでないかと思うかもしれませんが、人間の乳頭というのは実はここなんです。まあ英語ではTeatとNippleと分けていっておりますが、こういうふうに違うわけです。それでもちろん乳はここで作られるわけですが、ここから排出されます。それでここを手でつかむ、あるいは搾乳機ですると乳がここから出てくるわけです。ここは1本、1cmぐらいの乳頭管というものがあり、そこで中とつながっております。ですから人の乳頭の表面には、こういう乳管がいっぱい出ているわけです。大体人間ですと30本~50本ぐらい乳管が出ております。そこからばい菌が入っていくことは起こり得るのですが、牛は入管からばい菌が一つ入っていきますと、体中全部どこへでも行くわけです。ですから、乳房炎になりますと全体が影響を受けるという点でとんでもないダメージを与えるわけです。決してここら辺だけではないく、ここから入ることによって全部なのです。微生物が侵入する場所というのは、ここしかありません。乳頭管を通して。だから乳頭の先端からしか入っていかないのです。
そうして何が起こるかというと、乳量が増えてきました。乳の出る時間というのは、実は1.5分~8分間。乳というのはいつでも出るように思われるかもしれませんが、そうではないのです。大体5分~6分間しか乳は出ず、それを過ぎると出ないので、乳が搾乳できる時間は5~6分間しかありません。そうすると、1分間あたりの乳量がここからいっぱい通るわけです。その時にここの乳頭管という細い管なのですが、これが細いか太いかによって、乳の出が違います。乳量が多くなれば、ここは大きく開かないと駄目なんです。そうすると、どういうことになるかというと、微生物が非常に侵入しやすくなります。こういう牛というのは特徴があるのです。
この障壁2は実はあまり役に立っていないのですね。この障壁1が一番です。ですから、搾乳後に消毒するというのは、これを防いでいるわけです。ですから、ここで分かったことは何かというと、乳量が多くなる。この時間で搾乳しなければいけない。たくさんここを乳が通らないといけない、つまり太い。そういう牛を実は選んできたのです。その結果、微生物が非常に侵入しやすくなったのです。私の先輩も乳の管が太くなるやつを選抜しているのだけれども、こういうことになるのでどうするの?と聞いたら、それは分かりませんと言っておりました。しょうがないのですね。管を狭くすればいいのですが、広くしないことには乳が搾れませんので、やむを得ないということでやっておりますが、大変な経済的マイナスを起こしている。こんなことは泌乳能力を向上させなければ絶対に起こらないことです。絶対にとは言いませんが、ほとんど防げることです。

1日の最高乳量30~35キログラム

1日の最高乳量というのは、出産2か月後なのです。乳量を図にすると平らになるのではなく、への字型に変化します。それで最高に出るのは実は2か月後なのです。これは当たり前でして、子牛の離乳は2か月後ですから、母牛にとって乳が必要なのは最初の2か月なのです。ここまで乳が出ればあとはもう仔牛は自立しますから、乳を出す必要がないので、どんどん減るように進化したのですね。これを上げることは絶対にできないのです。への字型でどんどん減っていきます。
それで5分~6分しか搾乳時間がありませんので、そこで得られる乳量というのが実は最大20kgなのです。これ以上搾れないのです。今の日本の平均30kg~35kgには2回の搾乳というのは絶対に必要になるわけです。1回では絶対に搾れませんので。ですから2回搾乳する、これは合理性があります。出産2か月後ぐらい。少なくなるなら1回でもいいのですが、日本は面倒臭いので2回やっております。それでこういうことが起こったということになります。搾乳可能な時間は6分。搾乳速度の速い牛が望ましい。この搾乳速度の速いというのが実は育種目標に入っているのです。ですから実は、バクテリアが侵入しやすい牛にしているということなのです。

農水省の主張

農林水産省の主張というのは、さらに乳量と乳質を上げるということを言っています。これははっきり言っています。その一つが牛群検定という方法がありまして、これは乳牛に対してどれだけ濃厚飼料・配合飼料を与えているかという調査を全国でやっております。それで乳量が改善されたと書いており、報告書に出ております。何が可能にしているかというと、実は配合飼料をたくさん与えなさいと言っているのです。そうすれば乳が多くなる。乳質も上がりますよと言っているのですね。
そうするとここで問題になるのは、飼料原料の輸入というのは、本当に牛がどんどん増えてきたら、食べる量が増えてきたら可能かどうか。これはもう世界で規制がないと駄目なのです。一つ例を挙げますと、外国から輸入飼料原料を買います。今までは割合と競争相手がいなかったのですが、今は中国やそれ以外の先進国がどんどん増えております。ですから、日本に好きなだけ輸入させてくれるかどうかは、国際政治と関係しております。ですから、当然輸入が難しくなる。競争相手が出れば飼料価格の高騰に耐えられるかという問題があります。
牛乳を売ってそこから餌代とかを払いますが、餌代ってどれぐらいあると、経費のうちのどれぐらい占めていると思います?農林水産省の報告では40%~45%が餌代です。ですから飼料価格の高騰というのは、即酪農経営に影響するというのは誰にでも分かることです。本当に高騰しているのかと言われますが、もう着実にしております。今は統計が出ておりますので、すぐに分かるわけです。
それで今は1日に30kg~35kg搾乳できます。泌乳最盛期というのが実は一番大切なのですが、それを超えるとどうなるのか。30kg~35kgを超えるとどうなのか。乳がいっぱい出るようになると。1回の搾乳というのは20kgしかマキシマムに搾乳できません。でもこれ仕方がないのですね。そして1日で3回の搾乳というのは誰がするのだろうかということになるわけです。つまり40kgを超えれば確実に3回搾乳が必要になってきます。こんなの誰がやるのだろうということになります。
私が知っているところでは3回搾乳になった途端に、全部その牛を売っています。もう飼えないのですね。皆さん、考えてごらんなさい。1日3回ですよ。2回だって大変なのに3回です。しかもある程度時間の間隔をあけます。すると3回目は夜中とか、夕方遅い時間の搾乳になるのです。こんなの誰がやるかと。体力が続かないのですね。こんな馬鹿なことを言っていますが、こんなの本当に真面目に考えているのだろうかということになります。
そしてもう一つ、子どもを産まないのですね。泌乳能力の高い牛ほど、実は妊娠しなくなるのです。昔8回出産したけれど今は平均で3.5回なのですが、大体多くても3回しか妊娠していないのです。そういうふうになったのですね。そうしたらこれ、もっと減るのでないかと。そうしたら一体何頭牛を増やせばいいのだということになります。そして、もう一つは乳房炎というのは、泌乳能力が高くなるに従って増えてきたのですが、こんなふうなことになったら、おそらく乳房炎はもっと増えると思います。そうすると、牛もかわいそうですね。皆さん、見たことがないかもしれませんが、乳房炎になった牛というのは本当に見ていて痛々しいですよ。ですから、決して牛にとってどうでもいいことではないのです。もう見ていてすぐに分かります。痛そうだなというのがすぐに分かります。乳房炎というのは炎症ですから、発熱もしますし、さまざまな悪影響が出ます。こんなことを本当に考えて、やっているのだろうかということが私の疑問点なのです。それで飼いにくい牛になるというのは、もう明らかなのですね。さきほども言いましたけど、3回の搾乳に耐えられるのかって耐えられないです。売ってしまうんですね。それが日本の現実なのです。

繁殖が順調なら酪農はもうかる

昔からよく言われるのですが、繁殖が順調なら酪農は儲かる。これは昔言われたことなのです。要するに順調に子どもが生まれれば、酪農というのは儲かりますよと。ここに乳量とは書いていない。乳量が多ければ酪農が儲かるとは全然書いていない。昔はそんなに濃厚飼料も多給して、乳をいっぱい出すなんていう時代ではありませんでしたので、少しずつの利益で長く回収するというものだったのですね。これはやはり牛にとって望ましいことで、これをやはり忘れてはいけないわけです。
さきほども言いましたが、生後2年間というのは育成期間ですから、経費は全部持ち出し。それを4で割るか8で割るかによって、明らかにどっちが有利かというのは分かるということをお話ししました。つまり乳量が少なかったら余計な経費はかからなかった。これに結び付くわけです。とすると、乳量が多い=望ましい乳牛としたことにそもそもの誤りがあったということなのです。そうとしか考えられないわけです。そうすると、日本でこれからどうしていけばいいかというと、全部しようなんて言うと無理がありますし、また不可能なこともありますが。このように経費を掛けないで利益を、収益を上げる。酪農家が飼いやすい乳牛にする。こういうのを一つの目的として、酪農が生きる道があるのではないかということになります。これは当然の帰結なのですね。これ、言ってみれば昔の元に戻りなさいということなのですが、そんなことが可能だろうかと大体思うと思います。今は機械化して、乳をいっぱい出すということがいいことだと思っていますから、そんなことが可能だろうかという疑問が当然起こります。

酪農から楽農へ

それでこれもある酪農家から聞いた言葉なのですが、酪農から楽農へという言葉をその方がおっしゃったのですが、なるほどなと思ったのは、放牧と搾乳ロボットによる省力化というのは、実はこれ非常に相性がいいのです。搾乳ロボットといっても人型のロボットがあるわけではありませんで、四つの乳房を認識して、そこにピタッとカップを付けるっていう機械です。ロボットですから24時間動きますし、朝も昼も全くありません。ほぼ無人で動きます。ここに放牧と書いたのは、昔の日本の酪農を考えると、稲藁とか野草とか、野菜くずとか、そんなので飼っていると言いましたが、まさに放牧というのは牛本来の食べ物を与える飼い方なのです。搾乳ロボットと結び付けると何がいいかというと、放牧というのは牛が自由に動き回ります。それで一つ考えられるのは牛というのは乳が張ると嫌なのですね。それで搾乳ロボットのところへ歩いていくわけです。それで乳量が少ない時期は乳の張りがあまりありませんから、その時は1日1回しか行かないのです。しかし乳が多い時や優れた乳牛になりますと、放牧ではあまりいませんが、3回ぐらい行きます。これを搾乳ロボットがみんな分かっているのですね。今は全部識別ができますから。こういうことで、この放牧というのが一つのキーワード。搾乳ロボットという組み合わせでやる省力化というのが一つ。
もう一つは飼料生産。今日本で水田がものすごく余っているのです。今、富山県1県に相当する面積の耕作放棄地があります。水田の3分の1が休耕田です。稲が植わっていないのです、米あまりだから。そういうところをこういう稲藁飼料生産にしたらどうかと。こういうのを専門にやるような業者も出ております。これをやはり国としてバックアップしなければいけないのです。配合飼料というのは全部外国産ですから、食料自給率は絶対に上がりません。こういうものを増やさない限りは、食料自給率は改善しないのですね。当たり前です。
ところが、今日本には放牧に適した牛というのがほとんどいません。変な話ですが大型になったのです。私が学生の頃、約40年前ぐらいに見た牛に比べ、今の牛というのは一回りも二回りも大きいのです。ですから、山にはあまり適さないのです。ですが小型の牛ですと、30度ぐらいの崖を平気で上がっていき、全然気にしません。今の牛にはこんなことはできません。もうこれ、実は日本で実例がありましてね。満州から引き揚げた人が酪農を始めて、結局荒地しかなかったので、山では作物が取れず、しょうがなく牛を放牧したのです。戦争が終わった直後ですから、もう乳がほとんど出ないような小型の牛でした。それが延々と現在まで続いているわけですが、その牛は結構小さいけれど病気に強い。ほとんど完全に病気にかからない。乳房炎にもならない。ですが、そういう牛が今はいないのです。
日本の行政の方針で乳の出る牛を選んだのですから、その帰結というのは当然なのですね。私の知り合いは、もう日本に放牧に適した牛はいないから、どうするかというと、泌乳能力の劣る牛をニュージーランドから輸入しているのです。あそこは日本の昔の牛と同じなので、放牧ができるのです。もう日本にいないから仕方がない。ニュージーランドから買っているのです。そういうことを言っていました。ですから、いかに日本の行政が大きな間違いをしたかというのが分かります。やはりここに移らないと、行政も民間もいろいろなところがこういうところを目的にして、酪農における改善、構造改善を図っていかないと、少なくとも全部が全部、乳が多い=優れた牛というのは間違いになるよということを、私は言いたいわけです。
それで、一つだけ皆さんにお話をしたいことがあります。放牧というのは何か大した儲けがないような気がするでしょう。だって乳が少ないですから。ですが、そんなことはないのです。皆さん、バターっていうのは、毎年輸入をするのですが、牛乳が少なくなりましたから。どういうふうにして価格が決まると思います?輸入バターというのは29.8%の関税が掛かります。それだけじゃないのです。農畜産振興機構っていうのが日本の業者に払い下げる時、実はそこにマークアップが上乗せされるのです。それで日本のバターと同じくらいの価格になるのです。これはどこから輸入するかというと、ほとんどニュージーランドなのです。
どういうことかというと、大体それで価格って4倍になります。輸入価格の4倍になります。日本に払い下げる時には。それで日本のバターと同じ値段になる。ということは、ニュージーランドは4分の1の生産費でバターを生産しているということなのですよ。しかもニュージーランドというのは何を方針にして育種を進めたかというと、放牧なのです。ほとんど放牧なのです。行ったら本当にびっくりしますけど、乳の出は悪いです。だから搾乳は1日1回しかしないのです。さきほど言ったように20kgが1回の搾乳のマキシマムですから。それで私も少しびっくりしましたけれども。てっきり2回すると思っていましたから。ですから乳量は1回ですから20kg以下なのですね。少ないですが、生産費が掛からないことで世界最強の輸出余力を持っているわけです。競争力を持っているわけです。日本の新聞はなかなか書かないのですが、結局こういうさきほど言った改良を通して何をやったのかというと、とてもお金の、経費のかかる酪農にしてしまったと。そういう反面教師なのです。
ですから私も最初の頃、ああ、乳が出るというのはいいことだなと思って学生にも教えた。今それを深刻に反省しているのは、いや、それはあまりにも一面的な見方で、本当はそうでない畜産を残すような努力をしておかなかったことが、やっぱり本当の間違いなのだということを、最近本当につくづく思うわけです。
それで最後になりますが、やはり満州からの引き揚げ者で、北海道で酪農を始めた人のことが本の一部に書かれておりました。そこは非常に山の中腹でして、冬はマイナス30度ぐらいに下がるそうです。それで牛舎を建てる余裕がないので、放牧したのだそうです。そうしたら周りの酪農家が全部、牛は死ぬよと。あんなの続かないよと言ったそうです。最初の1~2年は本当に乳頭はしもやけになるし、乳を搾るような状態ではなかったそうです。冬でも外に出しておいたのだそうです。牛舎がないから。そうしたら、3年以降過ぎたら全然平気なのだそうです。だんだん慣れてきたのですね。それでマイナス30度の冬でも飼えることが分かって、周りの酪農家も結構まねをするようになったそうです。そこまで完全にというところまでは行かないようですが。北海道のマイナス30度で雪が降るところで、牛は放牧に耐えるわけですから、ましてやそれ以外の条件はずっと良くなりますから、放牧地というのは考えてみればそんなに少なくないのだよと。
日本に一つ珍しい特徴があるのは、野芝というのがあります。これは牛が草を食べますと、野芝が生えるのです。野芝というのはいつも青々しています。裸地になることがないのです。日本の野芝というのは結構背が高くて、牛が好むものなのですね。もちろん稲科の植物ですから、もともと好む植物なのですが、それが自然に野芝に変わっていくそうです。それで野芝による酪農なんていう本も出ているぐらいです。ですから、日本はそんなに放牧ということが不適地ではなくて、真剣に考えれば結構可能性としてあるのだよということが分かります。自然に生えるそうですから。ですから、何も外国の飼料用の種を蒔いて、日本はそれを進めているのですけど、そうではなくて、日本にもちゃんとあるんですね。ですから、そういうのを上手に取り入れれば決して不可能ではない。ましてや今、中山間地というのはもう見るも無惨なぐらい荒れ果てたのです。廃村だとか限界部落だとか、そこに出てくるのは猪だとか、鹿だとか、害獣がいっぱい来るわけですけど。牛は平気なのですね。そんなの全然相手にしないのです。牛というのはオオカミだって襲いません。昔襲うと言われて、北海道からオオカミはいなくなったのですが、そんなことは絶対にないのですね。ですから、そういう防衛になるということで、そういう良さを主張して、できればこういう生き方も増やしていくと。
今日聞かれたことはおそらく初めて聞かれたことも多いと思いますが、やはり日本に適した酪農を、どんなふうな姿が望ましいのか。もう一回考えようということで今日のお話を締めさせていただきます。