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第73回 牛乳・乳製品の最新の有用情報(生活習慣病関連)

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第73回 牛乳・乳製品の最新の有用情報(生活習慣病関連)
日時
平成25年2月18日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館 3階 A会議室
講師
女子栄養大学 栄養生理学研究室 教授 上西 一弘
管理栄養士/博士(栄養学)
骨粗鬆症学会、日本栄養・食糧学会、日本栄養改善学会評議員
日本人の食事摂取基準2005年版、2010年版策定ワーキングメンバー(ミネラル)
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会委員
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉癸
毎日新聞社 編集局記者 今井 文恵(座長)
日本経済新聞 編集委員 岩田 三代
江上料理学院 院長 江上 栄子
消費生活コンサルタント 神田 敏子
評論家・ジャーナリスト 木元 教子
日本大学芸術学部特任教授 菅原 牧子
科学ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞社 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当者
乳業協会:石原常務 他
【内容】
今回は、当協会の中心活動フィールドである「牛乳・乳製品」に関し、「骨粗鬆症」と「牛乳・乳製品」との関連を研究されている、女子栄養大学 栄養生理学研究室 上西一弘教授に「牛乳・乳製品の最新の有用情報(生活習慣病関連)」をテーマに、最近の研究結果等を中心にご講演をいただくことにした。
- 1. はじめに -

学生時代からカルシウムをテーマに研究をしており、今でもメインのテーマはカルシウムである。また最近は、スポーツ栄養が栄養学の分野で盛んになってきており、ここ数年は東洋大学の駅伝部の食事、健康面のサポートを行っている。
今日はその話ではなく、「牛乳・乳製品の最新の有用情報」ということで、主に私たちが関わってきている牛乳・乳製品の研究の話を3つのテーマで紹介する。牛乳と言えばカルシウム、カルシウムと言えば骨となるので、骨粗鬆症も生活習慣病の一つと考えることができる。そこで1つ目は、カルシウムと骨の話。2つ目は、2000年くらいから注目されてきている、牛乳とメタボリックシンドロームがどのように関係するかの話。3つ目が、現状の牛乳の摂取状況についての話である。

牛乳・乳製品 カルシウム、骨 肥満、メタボ 摂取状況
- 2. 牛乳中の栄養成分 -

牛乳・乳製品には、表1に示すように、1回使用量としてもたくさんのカルシウムが入っているというのが大きな特徴である。
表2には、仮に30~49歳の女性が、身体活動レベルが普通の場合、1日に1本(200ml)を飲んだ時に、必要な量の何%摂ることができるかを示した。カルシウムは34.9%であり、1日に必要なカルシウムの1/3が摂れる。それに対しエネルギーは6.9%でそれほど多くない。確かに牛乳はカルシウムの非常に良い供給源になると言える。1日3本飲めば、それだけで必要なカルシウムが摂れる。一般的に牛乳・乳製品イコールカルシウムと言われるが、カルシウム以外でもビタミンB2、B12、パントテン酸、リン等も1/4から1/5摂れることからカルシウム以外のこれらの供給源としても良い食材と言える。その他に亜鉛、ビタミンA、Dも日本人は摂取量が少ないことから、これらの供給源としても貴重な食品と言える。ただし、牛乳に含まれていないか、含有量が少ない重要な栄養成分が3つある。ビタミンC、鉄、食物繊維である。これらは牛乳からは充分に摂取できないため、色々な食品と組み合わせることによりバランスがとれるといえる。

<表1>
乳・乳製品のカルシウム含量
<表2>
牛乳200mlのエネルギー、栄養素の寄与率
- 3. 牛乳と骨 -

女子栄養大学には生活習慣病研究センターと呼ばれる研究施設があり、人を対象とした宿泊可能な実験施設で、一定の食事を食べてもらい、その時の摂取と排出、基礎代謝の変化等の人体実験を行うところである。ここで行った実験の一つを紹介する。
以下の表は、この研究施設で行った実験の結果である。食品および食品群別のカルシウムのみかけの吸収率を示したもので、よく色々なパンフレットに掲載されているが、牛乳中のカルシウムの吸収率は約40%、小魚は33%、野菜は19%となっている。牛乳に比べると野菜の吸収率は低いと言われている。

食品および食品群別のカルシウムのみかけの吸収率

今回実験に使用した野菜は、小松菜、モロヘイヤ、おかひじきで、カルシウムが多いと言われているが、共通点はシュウ酸が多い野菜である。シュウ酸が多い野菜の典型はホウレンソウであり、ホウレンソウのカルシウム吸収率は海外のデータでは5%といわれている。シュウ酸が多いとシュウ酸とカルシウムが結合するため、食べても体の中に取り込むのが難しくなる。逆に、シュウ酸の少ない野菜、例えばケール(青汁の野菜)は、カルシウムの吸収率が高く牛乳に近づく。シュウ酸である灰汁を除くことで、カルシウムの吸収率も増加する。小魚の吸収率が33%で、この値が一般的な食品の平均値で、野菜もシュウ酸を除くことで30%に近づくと考える。牛乳がこれよりも高い値を示すのは、牛乳の中のカルシウムがもともと吸収され易い形であり、さらにCPPというカゼインからできるペプチドがカルシウムの吸収を上げているからと考えられる。その他にもMBP等が見つかってきており、それにビタミンDも多いことが寄与していると考えられている。
では、牛乳を取っている人の骨は強いのかどうかを示したのが次の図1である。このデータは、東京都内の中高一貫校で13年位調査している結果の一部で、高校3年生男子の踵の骨の骨量を牛乳摂取量で比較したものである。牛乳を1日に200ml、1本以上飲んでいる場合は踵の骨が強いことを示している。骨は牛乳だけではなく、運動することで強くなるため、運動の影響とか、また身体の大きい人の方が強くなるため、その影響を取り除いた形で影響を見たデータを示しており、やはり飲んでいる人の方が強いと言える。
この傾向は女子でも同様のデータが得られている。図2のデータは女子大生の全国調査をおこなった時のもので、牛乳を飲んでいる人の方が骨は強いということになる。

<図1>
牛乳摂取と骨量 ステフネス 男子
<図2>
現在の牛乳摂取と骨量 女子大学生

ここまでをまとめると、以下のようになる。

カルシウムと骨 まとめ

牛乳と野菜を一緒に摂った場合、カルシウムの吸収率はどうなるか?平均になるのか?を検討する必要がある。恐らく、牛乳が野菜のカルシウム吸収率も高めるであろうと推測している。というのは牛乳の中にはカルシウムの吸収を高める成分があるため、その成分が野菜中のカルシウムの吸収率を引き上げるだろうと考える。このことが正しく証明できれば、学校給食で牛乳が出されるのは、単に牛乳のカルシウムの吸収のみではなく、給食全体のカルシウムの吸収率を牛乳が高めてくれることにもなる。特に成長著しい子供たちには、カルシウムをしっかり摂らなければいけない時期であるため、学校給食の牛乳の意義は重要であると思っている。

- 4. 牛乳を飲むと太る? -

若い女性の中には、「牛乳を飲むと太る。豆乳は太らない。」と思っている人がけっこう多い。「本当に太るか?」は、人によっても、飲む量によっても違うが、以下に示すように1本飲んでもエネルギーの面ではそれほど多くなく、太る要因ではない。ただ食品としては栄養的に優等生と考えられているため、太ると思われている。

牛乳200mlのエネルギー、栄養素寄与率

図3は、2000年にアメリカから出たデータである。18~31歳の正常体重の女性54名を対象に2年間追跡調査したものである。その2年間にどれだけカルシウムを摂ったか、1日当たりのカルシウム量がどれだけだったかで3グループに分けて、体脂肪がどのように変わったかを見たものである。1日にカルシウムを500mgしかとらなかったグループは、体脂肪が2%増えている。一方、カルシウムを1日に1000mg摂ったグループは、体脂肪が3%減っている。このデータは、カルシウムを摂ると痩せるということを示した初期のデータである。

<図3>
カルシウム摂取と体脂肪量の変動

我々は、「カルシウムは骨を強くする、そのために牛乳・乳製品を」との思いで研究を進めていたが、このデータが出た時に初めて、牛乳・乳製品とカルシウム、さらに痩せることとの関係に気付かされた。
アメリカの場合は、カルシウム摂取量の約7割が牛乳・乳製品からであるため、カルシウム量で示してあるが、これを乳製品で解析すると、恐らく牛乳・乳製品由来のカルシウムの方がより良い結果が得られると考える。サプリメントの様なカルシウムではこのような結果は得られないと言われている。
もう1つデータを示す。図4はアメリカの国民健康栄養調査データを解析したもので、カルシウム摂取量と乳製品摂取量を4分類して示したものである。カルシウム摂取量が一番少ないグループを1にすると、カルシウム摂取量あるいは乳製品摂取量が増えるに従って肥満のリスクは下がるという結果を示している。つまりカルシウムや乳製品をたくさん摂っている人の方が肥満になり難いことを示している。

<図4>
カルシウム、乳製品摂取量と肥満のリスク

そこで我々も、骨ではなく、肥満にも注目しなければということで、女子高校生のデータを解析し体脂肪率を見たのが図5のデータである。殆ど飲まないから200ml以上飲むまでを4グループに分けて示したもので、牛乳を飲んでいるグループの方が体脂肪率が低いというデータである。尚、体脂肪率に影響する運動とエネルギー摂取量の影響は取り除いている。
牛乳・乳製品が体脂肪を減らすようなメカニズムがあるのではということを検討する必要があると考えていたところ、メタボリックシンドロームが注目されてきたことにより、評価基準としては、体脂肪、肥満だけではなく、高血圧、血糖等も含めて考えようということで、生活習慣病に関して牛乳がどう関与するかを総合的に見るべく検討を進めた。

<図5>
牛乳摂取と体脂肪率 女子