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第99回 腸内細菌・プロバイオティクスと健康

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

Q1.プレバイオティクスは食品成分で、それには細菌はいないのですか。
A1.
  • 入っていません。オリゴ糖というのは糖の鎖がいくつかつながったようなもので、たくさんのブドウ糖がつながったデンプンと、ブドウ糖と果糖の2分子がつながってできている砂糖の中間ぐらいのイメージのものです。だから、サラサラした粉ですね。オリゴ糖の中でも難消化性のものは、私たちが食べても消化ができないので、それが大腸へ行って、大腸にいる腸内細菌がそれを自分の餌として食べることになります。そうしますと、これを使って腸内細菌が活発に活動できるようになって、増えることもできる。そういうものを積極的に摂ってあげるということで、腸の中の環境を整えていこうというのが、このプレバイオティクスということになります。
  • 質疑応答
Q2.細菌の名前は専門的で難しいのですが、日本語にどこかでは訳されるのでしょうか。それとも永遠に細菌名はカタカナ、ラテン系の名前なのでしょうか。
A2.
  • そうですね、日本語で定着しているのは乳酸菌や納豆菌ぐらいですかね。ただそれもどちらかというと一つの菌を特定しているものではなくて、こういうある性質を持つ菌の集団を名付けているものです。やはり、一つひとつの菌の名前はどうしても学名になってしまうので、なかなかそれを日本語にしてというのは難しいのかなと思っています。そういうものがもっと世の中に普及していって、それでもうみんながそれを使う、例えば先ほどの痩せ菌とか、そういうものが有用だとなると、それを日本語でどう呼ぼうかという動きが出てくるとは思います。現状ではまだまだそこまでは行っていなくて、一つの菌はすべてそういうカタカナのややこしい覚えにくい名前で説明されているのが現状です。
  • 質疑応答
Q3.自分の大腸の中に100兆個いるのかと思ったら、ちょっと恐れ多くなって、自分ながら怖い思いがいたしました。基本的な質問なのですが、私たちのその100兆個の細菌叢と言うんですかね。それはある動物の番組で、動物は自分のうんちを子どもになめさせて細菌を付けているというのを見たことがあるのですが、人間の場合はお母さんのうんちはなめていないと思うのですが、どうやって細菌叢が子どもに形作られていくのでしょうか。
A3.
  • まず、最初に動物の例をお話しされましたが、それは例えばコアラですね。コアラはユーカリという植物を食べますけど、あれは割と毒性が高いもので、コアラの赤ちゃんはお母さんのうんちを食べることで、腸内細菌をお母さんからもらいます。そうしますと、ユーカリの葉っぱを腸内細菌が分解できるようになりまして、それを自分の餌として食べられるようになるんですね。それが多分お聞きになった話かと思います。
    では人間の場合はどうかというと、お母さんの産道を通る時に、そこにも菌はいます。それから分娩口と排出口が非常に近い場所にあるということで、腸内細菌の影響も受けやすいと言われています。ですから、まずは出産の時に菌が赤ちゃんの方へ移っていって、お母さんから母乳を飲む場合も、おっぱいのところにも菌はいますので、そこはそういうところから受け継いでいきます。また、お父さんの菌はうつらないのかという話があるのですが、一緒のお風呂に入ったときにお父さんの腸内細菌が赤ちゃんの方に移るということもあるそうです。水の中ですから多少なりともくっつくと中に入っていくということがあると思うのですが、実際にそういうことが研究されていまして、家族で一緒にお風呂に入る人たちと、そうではない人たちを比べてみた時に、赤ちゃんとお父さんの菌を比べてみると非常に似ているとか似ていないとか、そういうことが研究されています。
Q4.細菌叢は、食べるものによって変わってくるという3タイプのお話もありました。例えば日本人がブラジルに移住したりすると、食べるものってガラッと多分変わったと思うのですが、そういう時にはやっぱり腸内細菌というのもどんどんと変わっていって、その環境に適応するようになっていったものなのでしょうか。
A4.
  • 例えば、ブラジルに移った場合、それはまさに食生活が変わることでガラッとそちらのタイプになります。先ほどご紹介しましたが、性別や人種・年齢に関係なくというのが基本的に言われていることで、それよりも食事の内容が大きく影響をします。日本人が例えば別のところに行って、そこの食生活に慣れたとすると、そちらのタイプになると言われています。
  • 質疑応答
Q5.今のご質問に関連して、そうすると大体家族で同じものを食べていると、家族の腸内フローラは似たものが多いということですか。
A5.
  • 似る傾向になることは確かみたいなのですが、家族で全く同じにはならないようです。個人によってもだいぶ違うという部分があります。やはりその人の何か個性みたいなものがあるのか、あるいは腸内細菌というのは先に住み着いた方が勝ちなので、先にある場所を取ってしまって、そうするとその影響が結構残るということもあるみたいです。それと、食べているもの、その人の細胞からどんなものが出てくるかなどいろいろなバランスの中で、その腸内細菌は形成されます。ただ一番影響が大きいのは食生活だと言われています。
Q6.同じ家族でも、大人になるにつれて、みんな食生活がバラバラになるとそこで違ってくるということでしょうか。
A6.
  • そうですね。あとは先ほどの年齢によって変わってくるのもあります。だから、そこの体の中の代謝と言うか、いろいろな体の働きと、食べ物と腸内細菌との関係で、こういうものが形成されていくことになります。その中で一番大きく影響するのは食べ物だろうと言われているということです。ただ、年齢もかなり影響が大きいです。
  • 質疑応答
Q7.腸内フローラの変化の図(スライドNo.22)を見ると、悪い菌がどんどん私たちは増えているようで。善玉菌が負けてくるということですか。
A7.
  • そうですね。そこはプロバイオティクス・プレバイオティクスを活用していただいて。
    ただ、その時代というのは、菌の培養を中心とした解析の時にはこうだったのですが、もしかすると今の遺伝子を使って解析することになると、もう少し別の様相が見えてくる可能性もあります。そこまで研究が完全には進んでいないので、まだ今現在は進行中の部分だと思います。
  • 質疑応答
Q8.ヨーグルトを食べるときの適切な量という目安というのがあれば教えてください。
あとは歳を取ってきますと、非常に小腸の働きが、消化・吸収力も鈍るようですので、その時の適切な量というのはどう考えたらいいのでしょうか。
A8.
  • 何を持って適切かということは、非常に定義するのが難しいと思います。やはり、摂った結果、いろいろな体の指標とかそういうものが良くなったという時に、それが結果として適切だったのだという判断をするしかないのかなと今の段階では思います。今、いろいろな企業のサービスとかで、例えば腸内細菌を調べますというそういうサービスが結構増えてきているようで、そういうものを調べて、例えばこれを暫く食べていた後に、こういう菌叢に変わったということが分かり、それを持って今まで食べていたものが適切だったのだということが判断できるようになるかもしれません。まだ現状では体の調子と言うか、血圧にしても血糖値にしてもそういう指標から判断する、あるいは排便の回数とか、そういうところで判断するしかないのだと思います。今後はそういうことが健康診断の一部として腸内細菌叢を解析することで、体の状態が分かるような時代が来るかもしれません。
    実際に、腸内細菌叢だけではなくて、腸内のいろいろな化学物質を片っ端から調べるということも行われていて、そうすると、その人の腸の中の状態が分かり、それと体の健康との関係がかなり分かるようになってきています。従って今後は、健康診断で便を調べるという時に、血便があるかどうかだけではなくて、菌叢であったり、中に入っている化学物質がどういうものがあるかということを調べることで、健康との関係が分かる時代が今後来るのではないかと思います。現状ではまだそれができていないということです。
  • 質疑応答
Q9.糞便微生物移植について、3~4年ぐらい前に1回取材をしたことがあったのですが、でもその後、研究してみたらあまり効果がないみたいな結果も出ていました。良さそうだなと思って期待してやってみたら、実際にはそれほど効果は出ないみたいなところもあって、今はどれぐらいなのかということをご存じでしたら教えてほしいのですが。
A9.
  • 現状どの程度ということは私も完全には把握できていないのですが、おっしゃるようにやはり良くないという例が出てきたり、かなり危ない例もあったと聞いています。だから簡単にやって簡単にこれがうまく行くというものではやっぱりないんだということが分かってきたのが現状だと思います。そうすると今度は糞便を全部移植するのではなくて、やはり選んで、その中のどういう菌を移植してやるとか、そういうことが分かってこないと、結局その人の中には非常に危険な菌もいっぱいある可能性があるわけですから。それは人によって合う合わないというのは非常にあると思うんですね。そうすると非常に危険なことになってしまう可能性もあって、それが今出てきていると思います。今後どの菌がというのをもう少し特定して、もう少し洗練された方法でないと、ただ単に便を移植すればいいというのではうまく行かないというのが現状だと思います。
Q10.それで行くと、痩せフローラとかも、痩せフローラを移植すれば痩せられるんじゃないかって期待を持たせる感じがするのですが、なかなか難しいということでしょうか。
A10.
  • この実験はかなり乱暴ですよね。痩せた人と太った人の全部を入れていますから。ただ、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌の実験では、この菌を特定して、低温殺菌処理した菌なので、生きている菌ではないんですね。死んだ菌をサプリメントとして食べていただく。そうするとこれはちょっと今までの生きている菌を摂取するというのとはだいぶ考え方が違ってきていて、そうすると、この成分の中に何かそういう働きをしているものがあることになるので一体それは何なんだろうということになります。
Q11.低温殺菌しても菌は死んでいないのですか。
A11.
  • 死んでいます。プロバイオティクスのところでは乳酸菌が生きているヨーグルトの話をしました。ただ、その後で話した加熱死菌を加えたヨーグルトや食品に添加されている商品もたくさん出ています。この死菌でもそういう免疫に関係する効果があることが分かってきています。今はプロバイオティクスという言葉の定義が「生きた微生物」となっているのですが、実はこれは死んでいる菌でも効果がある場合がかなりいろいろ出てきているんですね。だから、プロバイオティクスの定義としても、プロバイオティクスという言葉を使うかどうかは別にして、ある場面においては生きた微生物である必要はないということがいろいろ出てきています。先ほどの痩せ菌ですね。この場合も、加熱低温殺菌した菌でこういう効果があると。この実験では、低温殺菌した菌と生きている菌と、それから偽の薬と3群でやっているのですが、生きている菌を投与した群よりも、加熱死菌の方が効果がありました。これがなぜかがわからないのですが、でもこの研究グループはずっとそういうことを言っていて、低温で殺菌することに意味があるみたいです。そっちの方が効果があるのだということを動物実験でもずっと言っているので、多分そこに真実があるのだと思います。
  • 質疑応答

ここで少し「アッカーマンシア・ムシニフィラ」という菌について補足をしますと、今までいわゆるプロバイオティクスというのはビフィズス菌とか乳酸菌と言われていたのですが、次世代のプロバイオティクスという言い方がされていまして、この菌はかなり注目されている菌なんです。こういう痩せ菌ということもあるのですが、ただ痩せるだけではなくて、コレステロールとかインシュリン感受性の改善とか、そういう健康面で非常にいろいろな効果があると言われているので、期待されている菌です。
ただ一方で別の研究もあって、この菌を加えると自己免疫疾患的な病気が出るということを言っている人たちもいます。だからまだやっぱりそこも、今後の研究で、その安全な部分だけを取り出していくにはどうしたらいいのかという研究が必要なのだと思います。これは人の腸内にいる菌ですから、もともとこういう体重BMI、コレステロール値、血糖値が高い人の腸内では、正常な人に比べて少ないというのが最初の発見でした。もともと腸内にはたくさんいる人といない人がいて、その人の間で違いがある。そういうところから見つかってきたものですね。この菌がもともと多い人ほど、インシュリン抵抗性の改善効果が高いということで、肥満や糖尿病との関連性が言われてきた菌ではあります。

Q12.ヨーグルトの実験の対照群が牛乳で、牛乳に効果がないみたいなことが出ていましたが、なぜ対照群が牛乳なのでしょうか。同じ乳製品だったからでしょうか。
A12.
  • ここでは菌の働きを強調したいということです。牛乳が決して悪いわけではなく、より良いということだと思います。
Q13.便の中で3分の1は腸内細菌でそれが排出されているわけですよね。それは新しい細菌が作られているということだと思うのですが、それはどうやってでしょう。さっきのようなものを一生懸命飲んでもほとんどが排出されてしまったら、ヨーグルトも毎日食べなければいけないとは思うのですが。どうやって腸内細菌の出てくるものと作られるものは決まっていくのですか。
A13.
  • 腸内細菌は腸の粘膜、粘液というところがあるのですが、そこに張り付いてそれで生活しているんですね。ですので、そこの中で張り付きながら増えていく。それが増えて、少し脱落したものが便として出てくる。それが1日にかなりの量が出てくる。だから、かなりの量が1日に作られている、腸内で増殖しているということです。
Q14.腸内細菌叢にはいろいろな種類がいると思うのですが、大体同じような感じで出ていって、腸内細菌叢というのはほぼ維持されるということですか。
A14.
  • 基本的には非常に安定だと言われています。例えば1~2週間何かを変化させたぐらいではあまり変化しないと言われています。もっと長期間ずっと食事をしているとだんだん変化してくると思うのですが、短い時間ではそれほど変わらないと言われています。
Q15.ヨーグルトを作る家庭用の器具がいっぱい売っていますが、40度、8時間みたいなもので、牛乳とヨーグルトを混ぜるとできますが、こういった菌はそういう方法でできないのでしょうか。
A15.
  • 乳酸菌というのはある程度酸素があっても生きられる菌ですので、ある程度普通の環境でも増えることができますが、40度に保つのが難しいと思います。ヨーグルトメーカーだとできると思いますが、ただ単に牛乳を常温に置いておいても駄目です。
  • 質疑応答
Q16.いろいろな名前の菌を各メーカーが出していますが、そういった器具はそれも維持できるのですか。
A16.
  • そこは申し上げにくいところがあります。いろいろな雑菌が入る可能性もありますから、それだけが純粋に培養できているかは保証できないですね。乳酸菌は酸を作ることによって他の菌の生育を抑える働きがあるので、ある程度は大丈夫だと思いますがそれが完全に保たれているかはわかりません。そこは実際の商品を召し上がっていただいた方がいいと思います。
Q17.細菌は便からしか検査ができないのですか。血液には関係ないのですか。
A17.
  • そうですね。血液中は無菌状態です。血液を検査しても菌は分からないです。
Q18.健康診断で、便の検査はしないで、血液の検査だけは割合しっかりとしています。現在の血液検査は治療の一つの目安になっていますが、細菌の方はまだその段階までは来ていないということだと思います。将来的には両方を組み合わせることによって最適な治療ができるようになるのでしょうか。
A18.
  • おっしゃる通りで、今健康診断でも便を解析することで、単に血便を調べるだけではなくて、菌叢を調べることも研究としては進められているんですね。ですので、そういうところを実際の健康診断に生かしていこうということは、もちろん進められて、将来的にはそれを目指していると思います。
    それと、血液検査についてですが、血液の中には菌はもちろんいないのですが、腸内細菌が作る物質は血液の中に入っていくわけですね。そうするとその血液の中に腸内細菌が作ったどういう物質があるかは調べられるわけですね。それと健康との関係を調べていくことで、それで新たな健康診断の指標になっていく可能性は十分にあると思います。そういう方向に今は進んでいると思います。将来的にはそういうことが可能になるのだと思います。
  • 質疑応答