第99回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

「腸内細菌・プロバイオティクスと健康」

【日時】
2019年9月24日(火) 15:00~17:00
【会場】
乳業会館3階 A会議室
【講師】
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部
食品科学科教授 戸塚 護
株式会社 Food Connection 代表取締役 管理栄養士、公認スポーツ栄養士 橋本玲子
【出席者】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉葵
元 毎日新聞社記者 今井 文恵
ジャーナリスト 岩田 三代
江上料理学院 院長 江上 栄子
消費生活コンサルタント 神田 敏子
産経新聞社 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー広報担当
専門紙記者
日本乳業協会:岡田専務、本郷常務理事他
出席者
【内容】
腸内細菌の研究は進み、乳業各社はそれぞれ特有の機能性を訴求するヨーグルトを発売している。今後も人々の健康と強いからだ作りにつながるヨーグルトの価値と可能性を確認するために、腸に関する基本的知識と最新の情報に関するご講演を頂いた。
1)腸の構造と働き
2)腸内細菌叢
・善玉菌と悪玉菌
・ヒト腸内細菌叢の特徴
・腸内細菌叢と健康
3)プロバイオティクスとプレバイオティクス
・免疫応答の活性化と感染防御
アレルギーの発症抑制、症状緩和
・様々な機能をもつプロバイオティクス

最初に腸の構造と働きについて、腸というのはどういう構造をしていて、何をしている臓器なのかということをお話しします。
その後、腸内細菌、善玉菌と悪玉菌、それから腸内細菌叢の特徴と、腸内細菌叢と健康というお話をさせていただきます。
その後プロバイオティクスあるいはプレバイオティクスについて主に免疫系との関係を中心にお話をさせていただきたいと思います。

腸の働き

腸の働きというのは一体どういうものかというと、一番はまず食べ物から栄養素を消化・吸収する、その働きが一番重要で、小腸で行われます。大腸は、水分吸収し、そしてうんちを形成していく器官で、これが一番主要な働きと言えます。
しかし腸はこれだけではなく、非常にいろいろなことをやっていて、腸は「体内最大の免疫臓器」と言われています。免疫というのは、我々の体を守るシステムですが、それに関係する細胞が非常にたくさん腸には存在しています。
次に「第2の脳」と言われています。腸には脊髄とほぼ同じ数の神経細胞がありまして、ある程度独立して動いています。
それからもう一つが今日の話の中心である「腸内細菌叢」で、これはひとつの臓器であって最近ではこれ自体が重要な働きをしているという認識になっています。これらが腸の働きということになります。

消化管の構造

今度は腸の構造についてです。少し複雑な図ですが、この口から入って食道を通って、胃を通り、小腸に行きます。小腸は十二指腸・空腸・回腸からなっていて、栄養素の消化・吸収をするところです。
一方、大腸は小腸からつながって盲腸、そして盲腸からつながっているのが結腸です。その後に直腸、そして肛門につながります。
大腸では水分の吸収・糞塊の形成をするのが大きな働きです。腸管全体で約7~9メートル、小腸だけで6~7メートルで、大腸は1.5メートルぐらいという大きさの臓器です。

用語説明

次に腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)についてです。
まず腸内細菌叢という言葉についてご紹介します。これは腸内細菌とか、腸内共生菌、腸内常在菌という言い方もします。腸の中で人間と共生関係にあるということで共生菌、あるいは常に腸の中にいるということで常在菌という言い方をします。その腸内細菌の集合体を全部まとめて「腸内細菌叢」といいます。
それと同じ意味の言葉が「腸内フローラ」です。フローラというのはもともと「お花畑」という意味で、最初にこれを名付けた方はすごくロマンチックな方だと思います。腸の中のただのバイ菌がたくさんいる状態を見て、これがお花畑だと思えるような感性を持った方がこういう名前を付けたのですね。
最近ではこのような文学的な名前よりも、腸内ミクロビオータ、あるいはマイクロビオータと腸内細菌叢を表現することも多くなっています。

ヒトの腸内細菌叢

この腸内細菌叢には、どんな種類、どのような数がいるかですが、約1,000種類の常在細菌が、1人あたり約100兆個おなかの中に存在しています。重さにしますと約1kgから1.5kgぐらいになります。1,000種と申しましたが、全員に1,000種あるわけではなくて、ほぼすべての人に共通するのは160種類ぐらいで、人によってどのような細菌を持っているかが異なります。
それからこの100兆個という数ですが、私たち人間の細胞の数というのは約37兆個といわれています。細菌も一つひとつは細胞ですので、それよりもずっと多い数の細胞=生き物と私たちは常に生活を共にしていることになります。
それらの細菌が、主に大腸の中にいます。大腸には、内容物1g、簡単にいえばうんち1gの中に1,000億~1兆個の細菌がいます。もう少し口に近い方の小腸にも、大腸よりはだいぶ少ないのですが、1万~1,000万個の細菌がいます。十二指腸になりますと、大体10~1,000個ぐらい、胃にも大体十二指腸と同じ10~1,000個存在します。
したがって菌の大半がこの大腸に存在するのですが、それ以外にも存在していることになります。

善玉菌・悪玉菌・日和見菌とそのバランス

この腸内細菌にはどのような菌がいるか、というのを大まかに分けると、善玉菌・悪玉菌、そして日和見(ひよりみ)菌、この3つの種類に分けられるといわれています。
この善玉菌はよくご存じかと思いますが、ビフィズス菌、あるいは乳酸菌などで、病原菌の侵入を防いだり、悪玉菌の増殖を抑制するという働きをしています。また腸の運動を促し、便秘を防ぐ、あるいは免疫機能を刺激するなど、人間にとって良い働きをしています。
一方、悪玉菌は、ウェルシュ菌・ブドウ球菌・緑膿菌、あるいは大腸菌。ただ、大腸菌は完全に悪玉菌とは言えず微妙なところですが悪玉菌の一つと言えます。これらは腸内で腐敗することによって、有害な物質を作り出し、便秘や下痢の原因となります。また、加齢によって増加し、老化の原因となります。
理想的とされる腸内細菌のバランスというのは、善玉菌が20%、悪玉菌は10%、残り70%が日和見菌になります。日和見菌にはバクテロイデス・ユウバクテリウム・嫌気性連鎖球菌といった菌があるのですが、腸の最優性菌でして、体調が崩れると日和見感染の原因になります。日和見感染というのは私たちの体があまり健康でない場合、免疫系が弱っている場合に悪さをし始める菌による感染のことです。健康な状態の時には押さえつけているのですが、そうではないとこれが暴れ出して悪さをする、そういう菌になります。
最近ではどんな菌がいるかを片っ端から調べることができるようになっていまして、だいぶ違った様子が見えてきています。日和見菌の中に実はすごく重要な菌がいることも分かってきています。

主な善玉菌・悪玉菌・日和見菌

善玉菌の例としてビフィズス菌と乳酸桿菌を挙げています。
ビフィズス菌の形の特徴は、Y字型に二股に分かれていることです。ビフィズス菌は人の腸内に生息する代表的な善玉菌です。腸内フローラを安定させるほか、免疫刺激によって生体活性を促す働きもあります。
それから乳酸桿菌、いわゆる乳酸菌ですが、人以外の動物に見られる善玉菌の一種で、自然界に広く生息し、ヨーグルトや漬物などの発酵にも関与しています。したがって、ヨーグルトの発酵に関しては乳酸桿菌が非常に重要な働きをしていますし、これが体の中でも非常にいい働きをしているということになります。
一方、悪玉菌のウェルシュ菌は肉食動物の腸内に多く生息するクロストリジウム属の一種で、人の腸内では大腸菌よりさらに少数派です。腸内環境が乱れると増殖を始め、アンモニアや硫化水素など様々な有害物質を生成します。特に肉のタンパク質からアンモニアや硫化水素などあまり体に良くないものを作り出します。
悪玉菌には、それ以外にもブドウ球菌などがあります。この図の中で示している形や色は擬似的に付けたものなのですが、それぞれ形状に特徴があります。

便の状態を把握する5つのポイント

この図は、私たちが自分で腸内細菌、腸内環境を判断する時に、便の状態を把握する5つのポイントを示しています。便の約7~8割は水分です。残りの2~3割のうち、1/3が腸内細菌、1/3が食べ物のカス、残り1/3が体の腸から剥がれ落ちてきた細胞の一部です。腸内細菌はそれなりの量を占めていることになります。
便の状態について、日本人の平均的な排便量は1日125から180gほどでバナナ1~2本弱の量だそうです。量が少ない場合は食物繊維、野菜類の摂取不足が考えられます。やはり野菜をたくさん食べていないと、便の量が保たれないということですね。
次に色。ビフィズス菌が多い赤ちゃんの便は黄色ですが、健康な大人の場合、乳褐色ぐらいがベストで、茶色や黒色の度合いが増えてきたら要注意だそうです。
それから形と硬さ。ほど良い柔らかさのバナナ状の便が健康の証で、カチカチで硬い便は弛緩性便秘、コロコロの便ばかりが出る場合はけいれん性便秘の疑いがあります。
そして臭いについても、悪臭がする場合は悪玉菌が生成した腐敗物質が多い証拠で、腸内フローラがビフィズス菌優性になるにつれて強い臭いはなくなっていきます。
また、便の状態が硬く3日以上排便がない場合は便秘症です。毎日規則正しい排便があることが基本ですがあまり神経質になる必要はないとありまして、毎日自分の状態を便から判断することができるかと思います。

年代別に見た腸内フローラの変化

このいろいろな菌は、一生を通して同じ割合でいるわけではありません。出生日から離乳期・成年期・老年期にわたってその割合が変化していきます。
生まれてすぐに増えてくるものは、まず大腸菌です。これはある程度酸素があっても生きられる菌なので、これがまず増えてきます。いろいろな腸の環境が整ってくると、次に増えてくるのがビフィズス菌です。離乳する前の乳児期の間は、ずっとビフィズス菌が非常にたくさんいる状態が続きます。この縦軸は対数表示と言って、数値が1つ違うと菌数が10倍違うことになりますので、例えば大腸菌の場合、ここで数値が3つ違うとすると1,000倍違うことになります。それ以外のこの腸球菌・乳酸桿菌がいわゆる善玉菌になりますが、それぞれ異なった変動をします。
それから悪玉菌。特にこのウェルシュ菌というのは、老化に伴ってどんどん増えていく傾向にあると言われています。それから離乳期以降ずっと多いのがやはり日和見菌と言われる菌で、これが非常に多く、ここにいろいろな重要な菌がいるという話です。

腸内細菌(嫌気性菌)の培養

これは腸内細菌学の権威である光岡知足先生が開発された腸内細菌の培養法を示したものです。右側の写真は、寒天の培地の上にコロニーという菌の集団が生えているところの写真なのですが、それぞれのコロニーは1個の菌から増えてきて集団となり、この一つひとつの点になります。菌を生やして増やしてやらないと、その菌の性質が調べられないので、菌を培養して増やすというのがすごく重要なことでした。
腸内というのは基本的に嫌気的といって酸素がない状態ですので、酸素がない状態を作ってやらないとこういう菌を生やすことができません。そのためにこの箱の中にまず炭酸ガスを吹き込んで酸素がない状態にします。そこにさらに酸素を吸着しやすい還元銅のスチールウールと、吸湿用のティッシュペーパーを入れてこの中を酸素がない状態にして腸の中と同じような状況にすると細菌が生えてきます。それを解析することで、どのような菌がどれぐらいいて、どのような性質なのかが調べられます。
このような手法で、腸内細菌の研究が進んできました。

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