第98回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

プロサッカーチームアメリカの大学のアスレティック部門

ここからは、始めにご紹介したIOCの食事ガイドラインが実際に現場でどのように反映されているのかについて、日本のプロサッカーチームとアメリカの大学のアスレティック部門を例にご紹介したいと思います。

集中力・スタミナに欠かせない主食

これはプロのサッカー選手の合宿の時の食事です。普段はこんなに豪華ではありませんが、合宿になると普段よりも運動量が多く、また、10日間から2週間にわたる合宿期間中に飽きないようにするためも、バラエティに富んだメニューを準備します。
体重が減らないよう、炭水化物の豊富なパン、おにぎり、寿司飯とパスタなどを用意しますが、お昼に一番人気があるのは麺類です。練習後は食欲が湧かないので、冷たくて喉越しのよい麺類が好まれます。また、疲れてくると、お酢を利かせた酢飯も人気があります。
外国人選手には、必ずパスタを用意しますが、どこの国の選手にも喜ばれるのがチャーハンです。

筋肉作り・免疫力に欠かせないたんぱく質

次にタンパク質です。肉も魚も基本的にはしっかり食べますが、脂身の少ないヒレ肉やむね肉など選手からリクエストされることが多いです。
また最近、スポーツの世界では、魚の油に炎症を抑える働きがあるということから、魚を好んで食べる選手が増えています。豆腐もタンパク質が豊富なので、毎日、食べます。
以前、Jリーグのサッカーチームをサポートしていた時に、外国人のベジタリアンの選手がいました。栄養に関する知識が豊富で、日本食が大好きだったので、豆腐や高野豆腐、ひじきと大豆の煮ものなどにもチャレンジしていました。
外国人アスリートは、体にいいものは何でも取り入れようとする貪欲さが強いように思います。

代謝を促し、ストレスを和らげる微量栄養素

プロのサッカー選手の多くは、子どもの頃から栄養セミナーを受けているため、野菜や果物が体に良いことを理解しています。そのため、ベテラン選手は、いわゆるお惣菜を好んで食べ、若手は野菜イコールサラダだと思って、生野菜を食べます。
また、普段から体脂肪率に気を使っているため、真っ先にサラダバーで野菜を盛って、血糖値を急激に上げないよう野菜から食べる工夫をしています。太りにくい食べ物や食べ方について気を使っていて、まるでダイエットをしている女の子と話をしているかのようです。
また、果物も良く食べます。合宿中は基本的に甘い物を控える選手が多いため、メニューの中でも一番コストがかかっているのではと思うぐらい果物を多めに準備してもらいます。

脱水予防のための水分補給

水分補給には、100%のオレンジジュースやグレープフルーツジュース、あとはスープと味噌汁といった汁物を必ず用意します。これも見ていると面白くて、若手の選手たちは洋風のコーンポタージュやミネストローネを好んで飲むのですが、ベテランの選手たちは味噌汁を好んで飲みます。
また、外国人選手の中でもたまたまかも知れませんが、ブラジル人は味噌汁が大好きです。時々、メニューに味噌汁がなかったりすると「何で味噌汁を出さないの?」と、選手に注意されたこともあります。出汁の旨味や味噌の味は世界共通なんだなと思ったりします。

骨作り・免疫力に欠かせないカルシウム

トップアスリートの食事に欠かせないものがヨーグルトと果物です。デザート代りに食べますので、合宿の時は朝、昼、晩と夜食に用意します。フルーツのシロップをかけたり、グラノーラやナッツ類をトッピングして、ハチミツをちょっとかけたりして食べます。デザート代わりに食べていますので、1日3食。合宿の時は朝昼晩変わらずヨーグルトを食べます。
プロのサッカー選手とラグビー選手の場合、牛乳は必ず毎日出していますが、基本的に体脂肪率を気にしている選手が多いので、低脂肪の牛乳を出しています。牛乳は、朝食に飲んでいる選手が多いです。
クラブチームの場合、プロのサッカー選手を目指す、小学生、中学生、高校生の耳に、トップ選手の食事の情報は必ず入ってきます。保護者の方たちも牛乳・乳製品に関しては意識をしており、毎日、必ず飲ませるようにしていますとおっしゃいます。
牛乳・乳製品を習慣として摂るようにするためには、栄養セミナーなどを通じて、その必要性や効果的な摂り方などを、繰り返し伝えていくことが大切なのではないかと思います。

Northwestern universityアスレティック部門

これはシカゴにある私立の大学で、この方が栄養士の方です。非常に裕福な大学で、スポーツ栄養士が何と大学に3人もいるんですね。何をやっているのかと言うと、選手(学生)たちが運動の前後や、授業に持ち込む補食やドリンク類を用意し、適切なタイミングに適切なものを選べる環境を整えています。

Northwestern universityアスレティック部門

これらは、運動前にお勧めの糖質を中心としたスナックと、運動後にお勧めのタンパク質の多いスナック類を分けて設置してあるコーナーです。
ドリンク類は、数年前にブームとなったチェリータルト(加工食品に使うサクランボ)を使ったものです。抗酸化作用があるということで、運動後に飲んでいるそうですが、日本でこれだけのものを揃えられるところは少ないと思います。

Northwestern universityアスレティック部門

これは、ひよこ豆を潰してペースト状にした「フムス」です。タンパク質が効率よく摂れるということで、クラッカーやプレッツェルに塗って運動後に摂取しています。また、こちらはグミで、日本のものに比べて大きく、運動中に糖質補給のために選手たちが食べていました。

Northwestern universityアスレティック部門

選手たちが利用しているビュッフェスタイルの食堂です。IOCのガイドラインに書かれていた、低脂肪、高タンパク質で、野菜や豆類の揃った食事です。ご一緒した日本の公認スポーツ栄養士の先生方は、アメリカの食事に慣れていないため、見た目や味付けに驚いていましたが、アメリカではごく普通の食事。むしろ彩りもきれいで、パンやご飯などは精製されていないものが用意されているなど、大学レベルでは充実している方だと思います。

Northwestern universityアスレティック部門

こちらは、食堂に設置されているギリシヤヨーグルト専用の冷蔵庫と豆乳ドリンクのコーナーです。このような食事をとりながら、アメリカの大学生アスリートはトレーニングを行っています。
今回、日本の部活や運動をする子どもたちに対して、牛乳や乳製品をどのように摂ってもらえばよいのかについてぜひ話をして欲しいと言われましたので、私の個人的な考えを述べさせていただきます。
スポーツをしているお子さんの場合は、だいたい学校が終わってから運動をする前におやつを食べる機会があると思います。自宅で食べる場合もありますし、あるいはちょっとコンビニで何か買って、部活の前に部屋で食べるなど。
その時に何を選べばよいかを、子どもたちと日頃、接する機会の多いコーチや指導者が「牛乳を飲まなきゃ駄目でしょ」「ヨーグルトを食べた?」と、繰り返し伝えることが大切です。
1日3回の食事で必要なエネルギーやビタミン・ミネラルが摂りきれないお子さんも増えていますので、特に運動をするお子さんの場合、3回の食事以外に運動で消費する分(300~500kcal)を、補食(おやつ)で補うことが重要だという気がしています。
多くの学校では、依然、補食を禁止しているところが多いようですが、ライフスタイルが多様化する中、子どもたちが体作りのために必要ものを摂りやすい環境を整えてあげることが必要なのではないかと強く感じています。

FUEL UP TO PLAY60

次に、アメリカで行っている、スポーツを通じた子ども向け健康とウェルネスプログラムをご紹介して講演を終わらせていただきます。

Fuel Up to Play 60

これはプロのアメリカンフットボールリーグ、NFLとナショナルデイリーカウンシルが共同で行っている全国的な健康づくりプログラムです。もともとは、アメリカのデイリーファーマーズと米国農務省が創設者ということです。
このプログラムでは、食生活だけではなく、子どもたちに健康的な生活習慣を身に付けてもらうために、低脂肪や無脂肪の牛乳・乳製品、不足しやすい果物、野菜、全粒穀物、脂身の少ないタンパク質を摂取するよう促すと同時に、1日の中で60分体を動かすことをセットで行うよう勧めています。学校によって健康づくりに取り組む方法が異なるため、運動に力を入れるところ、食生活の改善に力を入れるところなど進め方は様々ですが、それぞれの学校が子どもたちの健康増進のためにやりたいことをサポートするのがこのプログラムの狙いです。2009年にスタートして以来、全米の小学校から高校の約4分の3に相当する7万3,000校がこのプログラムを取り入れているそうです。これは、NFLの選手によるサポートが受けられるのと、資金提供が受けられるのが成功の秘訣ではないかと思います。

プログラムの内容

プログラムの内容を一部抜粋すると、応募資格は3つ。まずは、インターネットからFuel Up to Play 60に登録する。学校のプログラムを推進するプログラムアドバイザーを選任する。それと、ナショナルスクールランチプログラム(政府が設定した基準に沿った給食や食事)を導入していること。
審査に通った学校は、助成金がもらえるほか、地域ごとの助成金や健康増進のための様々なプログラムも受けられるようになっています。
また、このプログラムでは、子どもたちの自立を促すため、高校生を対象にした起業家プログラムなども行っています。ホームページには、学校の環境、食環境、生活環境を改善するための「印刷可能な教育プログラム」の手引書がアップされており、いつでも必要なものがダウンロードできるようになっています。
日本には、Fuel up to Play 60に代わるプログラムはないと思いますが、子どもたちにとって憧れのスポーツ選手が発するメッセージはとても影響力があります。運動をしたら「牛乳とヨーグルトを摂ろうね!」と声を掛けてもらえたら、きっと実践する子どもが増えるのではないでしょうか。
牛乳や乳製品を摂る習慣がない方の中には、「そんなに大事だったんですね」と、あまり意識していない方も少なくありませんので、諦めずに啓蒙を続けていくことが重要なのではないかと思います。
講演はこれで終わります。ありがとうございました。

本日皆様のテーブルにお配りしたのが、牛乳にチョコレートシロップを入れたチョコレートミルクで、スポーツ栄養のリカバリーに必ず出てくる定番の飲み物です。少し甘いのですが、アメリカの選手たちは運動が終わった後に、牛乳だけだとちょっと飲みにくいので、チョコレートシロップを少し加えて、糖質とタンパク質、カルシウムを効率よく摂取しています。牛乳の量は個々に調整していただきながら召し上がってみてください。

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