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第98回 世界のアスリートたちは何を食べているの?
~牛乳・乳製品を中心に~

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第98回 世界のアスリートたちは何を食べているの? ~牛乳・乳製品を中心に~
日時
2019年7月8日(月) 15:00~17:00
会場
乳業会館3階 A会議室
講師
株式会社 Food Connection 代表取締役
管理栄養士、公認スポーツ栄養士 橋本玲子
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海酉葵
食卓プロデューサー 荒牧麻子
元 毎日新聞社記者 今井文恵
ジャーナリスト 岩田三代
江上料理学院 院長 江上栄子
消費生活コンサルタント 神田敏子
評論家・ジャーナリスト 木元教子
作家・エッセイスト 神津カンナ
科学ジャーナリスト 東嶋和子
産経新聞社 文化部記者 平沢裕子
(50音順)
乳業メーカー広報担当
専門紙記者
日本乳業協会:本郷常務理事他
【内容】
農業関係のジャーナリストとして、1年の約半分を特に地方を中心に農村の取材に当てられ、全国各地の奮闘する農家の姿を紹介されている青山浩子氏から、海外と比較しながら、日本の酪農が持っている強みや今後に向けた課題等についてご講演を頂いた。
出席者
【 要旨 】
1)スポーツ栄養に関するIOCの合意声明2010
2)スポーツをする人のカルシウムの必要量
3)スポーツ現場の食事風景
4)スポーツを通じた子ども向け健康とウェルネスプログラム
- はじめに -

皆様からよく、選手たちが何を食べているかを見たいと言われますが、選手やチームにとってそれはある意味戦略であり、個人情報でもありますので、なかなかお見せできる写真がないのが現状です。従って、過去にオリンピックの選手村食堂に帯同された公認スポーツ栄養士の先生方のお話や、ご紹介できる資料などを基に、牛乳・乳製品を中心に「スポーツと食」についてお話をさせていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。

Food Coonectionとは

プロフィールでもご紹介いただきましたが、もともとはプロのサッカーチームから声を掛けていただいたのがきっかけでスポーツ栄養に関わるようになりました。当時20年前というのは、まだ今ほどスポーツの世界で「食」が重要視されていない時代です。「食事と栄養は大事だけど、あまり予算はかけられないんだよね」と言われることがほとんどでした。
プロのサッカーチームには30~40人ぐらいの選手がいますので、食事にあれを出してほしいこれを出してほしいということになります。当初ゼネラルマネージャーから言われたのが、「遠征の時のメニューの品数がものすごく増えすぎてしまった。費用も掛かるし、果たして本当にこんなにいろいろなものがいるのだろうか」ということで、私はどちらかというとコストカッターとして呼ばれたのだなと思ったくらいでした。まずはそのメニューの中で、栄養面から不要な物は削除してほしいということで、メニューの内容をチェックしました。

トップクラスの選手は基本的に個別相談が中心になりますので、より強くなるためのアドバイスを個々の栄養状態や食環境に合わせて行います。そういったことを約20年近くプロの世界で経験させていただき、それがご縁で2003年ラグビーワールドカップ日本代表チームの栄養サポートをさせていただきました。
サッカーと違ってラグビーの場合は基本的に社会人チームですので、食事にかけられる予算に制限がある中であれだけの体を作らなければならないなど、スポーツ栄養と一口に言っても、種目やレベルによってサポート内容が大きく異なります。
また、2006年トリノオリンピックのモーグル日本代表、上村愛子さんのサポートをさせていただき、その後フジテレビの「Vメシ!JAPAN」という番組で未来のアスリートのためのメニュー監修をさせていただきました。
現在は車椅子の陸上競技選手のサポートを行う傍ら、これまでスポーツの現場で培ってきたノウハウを、一般の方たちに伝えるためのイベントや講演活動などを行っています。また、日本栄養士会のオリンピック・パラリンピック栄養支援推進委員会の副委員長として、国内における国際大会並びに事前キャンプのメニューアドバイスなどにも力を入れています。

スポーツの国際大会における食事

世界のアスリートたちは何を食べているの?

- スポーツの国際大会における食事 -

今、一番タイムリーな話題は、東京オリンピック・パラリンピックだと思います。そこで、国際オリンピック委員会(IOC)の専門家グループ(医師、栄養士)がエビデンスに基づいてスポーツ栄養に関する合同声明を発表していますので、それをご紹介したいと思います。

スポーツ栄養に関するIOCの合意表明2010

この合意声明は「Nutrition for Athletes」というテキストにまとめられ、世界中のアスリートがスポーツ栄養の最新情報を確認し、選手村食堂でのメニューの選び方などを学べる形になっています。これを見れば、おそらく世界のアスリートが今どのような食事をしているのかがご理解いただけるのではないかと思います。

トップレベルのアスリートになると、皆、肉体と精神を限界まで追い込んでいますので、最後に勝敗を左右するのは、練習以外の休養や食事だと言うことが書かれています。
では、そのアスリートたちはどのような食事をしているのかというと、個々に必要なエネルギー量を満たし、野菜や果物、豆・豆製品、穀物、脂身の少ない肉、魚、油を中心とした健康的な食事であれば、ビタミンやミネラルは十分に確保ができるとしています。これはどういうことかというと、海外のアスリートたちは、日本のトップアスリートに比べて多くのサプリメントを摂取しており、「まずは食べ物を先に」という考え方を再確認するためだと思います。
現に海外のスポーツ栄養士の多くは、「我々は教育者として、長期にわたってサプリメントを摂取した場合のアスリートへの影響が分からない段階で、積極的に勧めることはできない。まずは食べ物から」と言っています。

アスリートのための栄養の考え方

このスライドは、それぞれの栄養素の基本的な考えを紹介しています。まず一人ひとりのエネルギーの必要量は、運動種目、ポジションや性別、その日の運動量によって異なります。例えば、ラグビー選手の消費エネルギー量は4,000~4,500kcal、サッカー選手は3,500~4,000kcalという数値をよく耳にしますが、これはあくまでも目安で個人差があります。
ここ数年、スポーツの世界で重要視されているのは、「low energy availability(利用可能エネルギー不足」を防ぐことです。これは運動によるエネルギー消費量に対して、食事などによるエネルギー摂取量が不足した状態が長く続くと、骨粗鬆症や無月経など、健康に影響を及ぼすというものです。
特にダイエットをしている女性アスリートや、見た目を重視する新体操のような競技において健康管理上の問題とされています。

炭水化物に関しては、アスリートの世界でも重要なエネルギー源として浸透していますが、最近のトレンドとして低炭水化物ダイエットがアスリートの間でも流行っています。実際に夏場の合宿の時にお米を食べないで倒れてしまったラグビー選手がいたという話を聞いたことがあります。アスリートの間でも太ることを気にして炭水化物を食べない人たちが増えているんですね。これは日本だけではなくて、海外の栄養士の話を聞いていると、海外のアスリートも太りたくないのでなるべく炭水化物を減らしているようです。

タンパク質に関しては、日本のアスリートも基本的には食事で十分摂れていますが、スポーツの世界では筋肉づくりにはプロテインが必要、というイメージが未だに強く残っています。
日本では運動が終わった後、疲労回復を早めるために炭水化物を意識して摂りますが、海外の場合は炭水化物とたんぱく質を組み合わせて、疲労回復や運動でダメージを受けた筋肉の修復に役立てています。海外の選手がリカバリーに牛乳やチョコレートミルクを好んで飲む理由はこのようなところにあります。

ビタミンやミネラルに関しては、運動で消費するエネルギーに見合った食事をバランスよく摂っていれば、ビタミンやミネラルなどの錠剤、いわゆるサプリメントは必要ないと言われています。
ただし、栄養素の中でも特にカルシウムは、骨密度が高いほどけがや障害を防ぐと言われていますので、アスリートたちは日頃からカルシウム不足にならないよう意識しています。また、カルシウムの吸収を良くし、免疫力を高めるビタミンDもセットで摂ることは、スポーツ栄養の世界ではよく知られていることです。
あとは運動をすると酸素を運搬する際に鉄が不足しないようにすることが大切です。この三つのビタミン、ミネラルに関しては、食事で相当意識して摂るか、人によってはサプリメントを利用することが薦められています。

水分補給に関しては、既に日本でも熱中症対策の一環として、スポーツ飲料の摂取が推奨されていますが、テキストのガイドラインには、運動前の体重と、運動後の体重が2%以上減少しないようにというのが一つの目安になっています。社会人ラグビー選手の場合、練習前と練習後の体重を測ると、4kgぐらい減っている選手がいます。2時間くらいグラウンドで練習をして、その後室内でウェイトトレーニングをして、合計3時間ぐらいトレーニングを行いますが、こまめに水分を補給しても汗をかく選手は、必要な水分量が補えないことがあります。

また、スポーツ飲料が必要か否かについての目安ですが、運動強度の高いアスリートが継続して1~2時間運動を行う場合は、汗の成分となるナトリウムやエネルギー源となる糖質を含むスポーツ飲料を飲むことが、今ではスポーツの世界では常識となっています。

- カルシウムに関するガイドライン -
カルシウムに関するガイドライン

次にカルシウムについてですが、カルシウムは特に思春期の子どもと、女性アスリートの丈夫な骨に欠かせないため、日々十分に摂取することが重要です。また、カルシウム源として牛乳やヨーグルト、チーズなどを1日3サービング、これをグラム数に換算すると牛乳でコップ1杯強、チーズは30g~45g、ヨーグルトは170g~225g程度摂ることが薦められています。目安量の幅は、個々の必要量によって異なります。