第96回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

Q&Aの補足:森永乳業株式会社 東倉執行役員からのコメント

少し補足をさせてください。アニマルウェルフェアとか環境関係のことが小売価格に直接のっている国はほとんどないと思います。ただ、補助金を支給する前提として、例えば何かの環境規制に応えることを生産者に課している場合はあります。また、アニマルウェルフェア基準をきちんとやっているところには、ちゃんと補助金をあげますという施策などもあるようです。そういう仕組みがあるので、逆にそのような規制に沿って生産者はしっかりやるっていうことは、ヨーロッパでは特にあるようです。日本はまだ残念ながらそこはありません。

それから1頭あたりの年間乳量を国際比較について、最初の方で国別に乳量が何でこんなに違うのかという議論があったので、少し補足をさせていただき、日本の酪農家を少しフォローしたいと思います。

なぜ違うのかというと、まず牛の品種の問題、餌の違い、環境、改良などがキーワードになると思います。一番の差の原因は餌が違うことによります。例えば極端な例では、ニュージーランドやオーストラリアは乳量が少ないですが、ニュージーランドはほとんど濃厚飼料と言われる穀物を給与しておらず、放牧して草だけ食べさせている。そうするとこれぐらいしか乳量が出ないということがあります。オーストラリアもそれに近い飼い方をしています。

それから一つ気を付けなければいけないのは単位です。「kg ECM/yearcow」とあり、これは1年間にどれだけ搾れるかを指していますが、このECMというのは乳成分で補正をしているということです。濃い牛乳の乳量が多くなるように補正をしています。薄いとたくさん乳量が出ます。これを補正しているので、若干バイアスが入っています。日本の牛乳は他の国に比べると薄いので、そういう意味では量はもっと出ています。
日本の牛乳は飲用に使うケースが多く、60%以上が飲用向け牛乳になっています。ただ、薄い薄いといっても乳脂肪分が3.5%~4.0%ありますので決して薄くはないのですが、ニュージーランドとかヨーロッパは乳製品に向ける乳が多いので、もっと濃く搾る傾向があります。濃いと1kgの生乳から得られる乳製品の量が増えるということで、乳業メーカーからするとその方が歩留まりが良くなりますが、濃い牛乳になると乳量は少なくなるので、濃い牛乳はこの絵で言うと多く出るように見えているということです。そういう意味で、日本の牛乳は大体、何も補正しないと9,000kgぐらいは出ていると思います。

また、気候や環境も大きな影響を及ぼしています。デンマークの地図でいうと、ホルスタインという牛は、このデンマークのちょっと南、ドイツの北側にホルスタインという場所があってここの原産です。つまりホルスタインにとっては、デンマークとかドイツとかオランダが出身地なので、そこが一番適した環境というわけです。ご想像の通り非常に涼しいところです。牛は草を食べておなかで発酵をさせますので、おなかの中で熱を持ちます。ですから非常に暑いのが苦手な動物です。このあたりは大体気温が20~30度がいいところで、30度も行かないですよね。また、ホルスタインの場合は温度25度、湿度60%を超えるとストレスを感じると言われているぐらいですが、日本の場合に置き換えると、その環境は実は梅雨のころで、それを超えてからの夏はさらにあがりますよね。最近はさらに温暖化が進んでいるので、牛にとっては本当に過酷な環境のなかで、酪農家さんは何とか牛舎の中を涼しくしようと頑張ってくれています。例えば埼玉では40度超えという中で、頑張って牛を搾っている方がたくさんいらして、そういう方のところでも牛は1頭あたり1年間で8,000kgぐらいは十分搾っていらっしゃる。そういう意味で、非常に頑張っていただいていると思っています。

それと、先ほどのアニマルウェルフェアと関連しますが、ここに示された数字は1年でどれだけ搾るのかという数字です。では一生涯でみるとどうなのだ?というところが、アニマルウェルフェアの観点で非常に大事だと思っています。残念なことに日本ではそこはまだまだ足りていないところがあり、1年に9,000kg~約10,000kgほど搾ってはいますが、平均で一生涯に2.7回ぐらいしかお産ができない、つまり2.7回ぐらいしか搾っていない状況です。単純に計算すると一生涯で約30,000kg搾っているかどうか、という数字になりますが、例えばニュージーランドなどでは、10年ぐらいは普通に搾っているというところもあります。そういう意味では、1頭について生涯で何kg搾るのか、ということのほうが大事ではないかと、いま酪農家の中でも少し潮目が変わってきていて、そういう飼い方をしようという人たちが増えています。つまり1頭あたり一生涯に40,000kg~50,000kgぐらい搾ってあげようよと。その方が牛にも優しいし、もっというと、赤ちゃんをたくさん産んでくれた方が商売のプラスにもなるし(実入りもいいし)、ということにもつながります。そういう考えが、遠くからですが結果的に動物福祉へと近付いてくると思います。

今までの日本では動物福祉という概念がさほどありませんでした。きちんとした規格や取り組みがようやくはじめられてきたところなのですが、じゃあ、できていないのかというとそうではなくて、牛を大事に飼おうという酪農家の方々はたくさんいらっしゃいます。一番足りないのは面積で、みんなを放牧させるとか、広いところで飼うことは、十分にはできていないかもしれませんが、生産性に直接結び付くところでもあるので、牛にストレスを与えないで飼う、という方向に向かわれていると思います。

それとこれは個人的意見ですが、一番気を付けなければいけないのは、アニマルウェルフェア、つまり動物福祉と、愛玩動物の飼育における動物愛護とが、日本の場合は少しごっちゃになっているなという気がします。
動物愛護というのは、どちらかというと“かわいそう”とか“かわいい”といったことで、それと産業動物は必ずしもイコールではないだろうなと思います。だからそこのところをはき違えないように考えていかないと、日本の風潮としては、何となくファッションのように進みかねないので危ういなという気がしています。動物愛護と動物福祉をひとまとめにして考えはじめると、おそらく何もできなくなるような気がします。そこら辺が少し気になっているところです。

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