第96回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

●日本の酪農の強みと弱み(今後に向けた課題)

資料:農林水産省「各国の酪農・乳業の現状」より

日本の酪農との比較について

これは各国の乳価を比べてみたものです。日本・韓国の乳価は、その他の国に比べ相対的に高いですね。デンマークと比べると倍ぐらいの価格です。輸入に依存する飼料価格、環境規制といったコストがかかっており、それが消費者に受け入れられているということだと思います。広い土地があって、飼料も自給できるようであれば異なる価格になっているかもしれません。
ただ、日頃から取材で接している日本の酪農家からは、この価格に安住することなく、国内で継続的に酪農を続けていくことに努めていく必要があるという話をよく聞きます。
貿易自由化が進めば、効率的な酪農経営が可能な国から乳製品が入ってきます。日本は狭い面積で酪農をやっているからしょうがないのだということではなく、いかにこうした乳製品が増えても、国内で酪農を続けられるか、自分たちの収益性を確保ができるかという、そういった観点に立って経営をやっていかなければいけないと聞きます。

日本の牛乳・乳製品の消費動向

この図は日本の乳製品の消費動向です。皆さんご存じと思いますが、牛乳や乳製品の消費は少し上向きになっています。高齢化とか少子化が進んでいるため、健康面への効果が明らかになっている牛乳や乳製品の需要は堅調に推移しているのでしょう。安定した需要があるだけに、憂慮されるのは生産基盤の弱体化です。

日本の酪農家数の推移

酪農家数は右肩下がりで減っており、1万5,000~6,000戸です。

日本の生乳生産量及び飼養頭数の推移

さらに危惧しているのは、生乳生産量も減少傾向にあるということです。酪農家の数は減っていても、生産性の向上により、生乳生産量を維持しているのがデンマークだと思います。
農家の数も減り、生乳生産量も減っていることに対し、乳業メーカーは危惧しているのではないかと思います。

乳牛1頭当たりの年間乳量比較

1頭あたりの年間乳量を国際比較すると、この表ではデンマークが年間1頭あたり1万kg以上、日本は7,000kg。1頭の牛から多くを絞ることだけが必ずしもいいわけではないとは思いますが、日本は伸びる余地が十分にあるということは言えると思います。

日本の酪農の強み

日本の酪農の強みと弱み

まとめになりますが、日本の場合、一元集荷・多元販売という体制が確立されており、安定した生産供給体制があるということは大きな特徴だと思います。
私たち消費者にとって、一日たりとも牛乳が品切れになるということは考えられません。鮮度が命の牛乳、乳製品がこれだけ安定的に供給されるということは、こうした制度のおかげだと思います。去年から生乳生産の体制が変わりましたけれども、それでもそんなに大きな混乱はなく供給されているということはこの制度がうまく機能しているということであって、この制度は維持されるべきだと思います。

日本は規模や効率を追求する酪農ではなかなか難しいですが、6次産業化という形で乳製品の付加価値を高める経営という点では強みがあります。チーズであったり、アイスクリームであったりヨーグルトが、その消費者にとても支持されています。
生産者のなかに「規模拡大は難しいけれども、6次産業化で川上から川下までカバーする経営として成り立たせようと思う」というところが少なからずあります。また近年では、規模拡大も進んでいます。規模拡大型か、あるいは6次産業化による経営多角型なのか。こうした選択肢があるということは日本ならではの強みではないかなと思います。

日本の酪農の弱み

安定した需要がある一方で、酪農家数や生乳生産量の減少に歯止めが掛からない点が最大の課題だと思います。
日本も今後、TPPやFTAの影響が農業にも現れてくるでしょう。韓国の状況を参考に、関税が下がることにより、乳製品の輸入がどれほど増えるか、消費者の行動がどう変わるかを注視する必要があるでしょう。

先日、消費者や生産者を対象にした講演会に出て、その後の懇親会にも参加し、酪農家の方々と交流しました。そこで私が感じたことを話します。

生産生乳量減少に歯止めが掛からず、後継者が不足しているという課題に対応するため、国は酪農家の規模拡大をすすめています。実際、規模拡大に意欲的な農家は少なくありません。ただ、規模拡大をせずとも経営が続けられるようなスタイルも同時に、確立していくべきではないかと思います。
懇親会の会場で、ある酪農家から「なぜ、日本ではこんなに酪農家の数が減っているんだと思う?」って聞かれました。私は「何でですか」と尋ねると、「結局しんどいからだよねと。しんどくなければやるよ」という答えでした。では、何がしんどいのかというと、「労働時間が長い」、「休みがない」ことに起因するのだろうということでした。じゃあ、どうすればその労働時間を少しでも減らせるかを考えるところから始める必要があります。

デンマークのように1頭あたりの生産性を上げることもひとつの方法でしょう。8,000kgの生乳を搾っている牛が1万kgを出せば、飼育頭数を減らしてもやっていけると思います。今は規模拡大しようと話しが進んでいますが、規模拡大をしなくても、休みを取ったり、休憩時間を取りながら酪農ができる、頭数を減らしても成り立つというスタイルも大事だと思います。
なぜそう思うかというと、いま農業をやりたいと思う若者には、ビジネス感覚に長けて、経営として農業を捉える人もいれば、規模拡大を考えず、自分の目の届く規模で、生産から販売まで自己完結でき、農村で暮らすことに価値を感じるという人もいます。そういうことを考えると、規模拡大ばかりではなく、小さくて強い農業、足腰がしっかりとした農業というもののスタイルも確立していく必要があるのではないかと思いました。

同じく懇親会場にいた複数の女性酪農家と話をしました。私は「仕事も家事もこなし、自由になる時間は1日に何時間ありますか?」と聞いたら、「1時間」とおっしゃっていました。
「では、その1時間は何に使いたいですか?」と聞いたら、「勉強に使いたい」とおっしゃっていました。しかし、勉強のために外に出るとなればヘルパーを雇わないといけない、ヘルパーに1万5,000円とか払うという状態なので、勉強をしたくても現実的には難しいと言われました。そこでEラーニングみたいな形で勉強できる方法を考えていく必要があると思いました。他の酪農家は時間短縮のために、あるいは生産性を上げるためにどんなことをしているか。興味を持っていると思います。

弱みをカバーしていくための課題

弱みをカバーしていくための課題

そういったことを踏まえると、農家の努力のみならず、農家を支援する関係者の体制も強化することが求められると感じます。

デンマークのアドバイザリーサービスも参考になるはずです。日本での農家への支援といえば、農協や行政、共済組合の獣医などがいます。この人達がうまく連携を組んでいる地域もありますが、農家が個別にコンタクトをとることが多いと思うのです。できれば1か所にまとめて、ここに聞けば例えば経営についても相談でき、病気のことも相談ができ、資金のことも相談ができるしというようなワンストップサービスができるように体制を再編するということが必要なのかなと思います。近年、農家が減っており、支援する人の人数も減少傾向だと聞いておりますし、普及員の数も減っています。農家数の減少に連動して、サポートする人の数も減ってしまうようでは、盤石な酪農の生産体制を構築することが難しいのではないかと思います。ここはもう長期的な視点に立って支援体制を再構築することが大事かと思います。

それとともに、データの管理や活用の方法も考えていくことが求められます。経営力を持った農業者は、自社のデータ管理をしています。税理士や金融機関から有益な情報を収集し、自社は全国の酪農家の中で、収益面でどれぐらいの位置づけにあるかなどを把握しています。そういった情報にあらゆる酪農家が簡単にアクセスできれば、モチベーションが上がってくるのかなと思います。日本で活躍する酪農家はわずか1万5,000戸。この人達は酪農のプロ集団です。ですから、プロが有効に活用できるデータとは何か、どう活用していけばいいかということを考えていくべきかと思います。

最後に、将来の酪農家の教育についてです。
例えば群馬県の高校で学ぶ学生が酪農家になりたいと思っても、畜産科を設置している農業高校が多くないと話していました。大学になれば、地元から離れていても酪農を学ぶ大学に行く機会は広がりますが、できれば高校の時から、酪農に関心があり、学びたいという学生が早く学べるように、農業高校同士で連携して、早くから酪農の知識なり経験なりを積み、学業を終えれば、後継者がいない牛舎を活用できるというように、シームレスで後継者を育てていく仕組みがあればと思います。

韓国の事例は、貿易自由化が進んだ先に訪れるであろう将来の日本を考える際に参考になります。酪農の先進国デンマークと比較すると、日本の酪農の強みや課題が明確に浮き上がってきます。そういう点で、韓国もデンマークも非常にヒントになります。
日本とデンマークは、アドバイザリーサービスの協力を得て、日本とデンマークの酪農について共同研究をおこなったと聞いています。国同士の協力が深まり、お互いの酪農の発展につながっていけばと思います。
本日はありがとうございました。

1 2 3 4 5 6 7 8