第84回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

発酵乳・乳酸菌飲料の機能

発酵乳・乳酸菌飲料について今日では多くの機能性が研究されております。特に、「樹状細胞とToll様受容体の発見」で2011年にノーベル生理・医学賞を受賞したSteinman博士、Beutler博士、Hoffmann博士の研究は偉大です。彼らの功績により、免疫科学を中心に発酵乳・乳酸菌飲料に関する機能性の研究は大きく進んでいます。

  • 新生児の腸管菌叢の形成
  • 新生児の腸管菌叢の形成

新生児の腸管菌叢について最近ある学術書に発表された学説の紹介です。
光岡先生の著書には、胎児は母体中では無菌ですが産道を通過するときに子供の腸内に菌が侵入すると記されており、新生児の腸管菌叢の形成(1)の右図でも示されたとおり、誕生以降グラフの線のように腸内菌層が形成されていくとあります。この説明は現在医学界での常識になっており、否定する人はおりません。
最近、或る医学系の学術雑誌に驚くべき事実が報告されました。この説は、様々な細菌が母体の腸管壁を通過して血液に移行し、乳腺細胞に至り、子供の口に入るというものです。この論文では分娩2ヵ月前から母親はプロバイオティクスを積極的に摂ると、新生児に対し良好な腸管菌叢が形成されるとも言っています。現在のところ医学界はこの事実が普遍的に起こるものとして認めてはいませんので、あくまでも一つのエビデンスとして紹介するに留めたいと思います。

およそ9千年前から飲用されてきた牛乳

日本人は牛乳を沢山飲むと下痢をすると言われています。牛乳はガラクトースとグルコースが結合しているものですが、この結合を切る酵素、乳糖分解酵素ラクターゼが成長に伴い遺伝的に微弱になる為乳糖が分解されず、乳糖不耐症の症状が起こるというのが定説になっています。ある調査では、日本人のおよそ80%がラクターゼ欠損であると言われているのに乳糖不耐症の発症率は30%程度です。また、乳製品製造学の観点から申しますと、ヨーグルトの製造に要する発酵時間は僅か2~3時間ですが、その時間内では乳糖は完全に分解されず、3分の2の乳糖が未分解のまま残っています。それにも拘わらず、ヨーグルトとして摂取すると、不耐症の症状が起こらなくなったという人も多いのは何故なのでしょうか。

謎を解くGPCR

その謎を解く鍵は「GPCR」にあると考える須山享三氏(東北大)と市村敦彦氏(京大)の考えを紹介したいと思います。
GPCRとはG-Protein Coupled Receptorsの略称であり、Gタンパク質共役受容体ファミリーと呼ばれています。Gタンパク質は外因性の刺激物質を感知して、細胞内に伝達する働きをしている膜タンパク質で私達の腸管上皮細胞にも存在し、細胞のセンサーであると定義されています。このGタンパク質を発見したKobilka博士とLefkowitz博士は2012年にノーベル化学賞を受賞しています。人間においてはおよそ800のGPCRが存在すると予想されていますが、リガンドが判っているものはおよそ1/3の250程度であり、残りはオーファン受容体であると考えられています。
近年、オーファンGPCRのリガンドの探求の結果、様々な遊離脂肪酸(FFAs)を認識する新たなGPCRファミリーが確立されております。ファミリーとしてはGPR 40、GPR 41、GPR 42、GPR 43、GPR 84、GPR 120などがあります。これらのうちGPR 40とGPR 120は中長鎖のFFAsをリガンドとしています。一方、短鎖のFFAsをリガンドとしているのがGPR 42とGPR 43です。
発酵乳を介して腸管に達した乳酸菌やビフィズス菌などの有用細菌は乳糖を分解して酢酸、プロピオン酸、酪酸といった短鎖のFFAsを生成します。これらのFFAsがリガンドとなってGPR 42やGPR 43に結合し、炎症を抑える働きをするのではないかと考えるものです。GPR 42やGPR 43に関する研究がもっと進めば、乳糖不耐症から日本人は解き放たれることになる筈です。まだ仮説の段階ではありますが、あと2、3年もすればこの辺りのことがもっとはっきりしてくるものと思われ、その成果に期待しているところです。

1 2 3 4 5 6 7