第84回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

明治新政府が執った富国強兵のための勧農政策

明治時代に入ります。明治元年に出された「五カ条のご誓文」の第四条に「旧来の陋習(ろうしゅう)を破り転地の公道に基づくべし」という文言があります。この条文を受けて富国強兵政策の下に牧畜の政策がとられ近代日本の基礎が固められていきます。

長生法

「長生法(ちょうせいほう)」が明治6(1873)年、石黒忠悳(イシグロタダノリ)という軍医によって著されました。内容は、「日本も昔は肉類を食べていた。そのため、逞しく健やかで寿命も長かった。今では、主上も牛羊の肉が御膳に上がり日々牛乳も召し上がっている。このことから天から授けられた最上の食品を食べて身体を健やかに生長させ寿命を延ばす基本とすべき。当今は牛乳を販売する所が出来たため貧しい人にとっても幸いである。獣の乳は子供の生長に良いものである。獣の乳で子供を育てることだ。しかし、驢馬や羊の乳は手に入りにくく、牛の乳は手に入り易いため子供には先ず牛乳を与えるべきだ。」となっています。

安愚楽鍋

仮名垣魯文(かながきろぶん)が書いた「安愚楽鍋(あぐらなべ)」という書物です。これは世相を皮肉をこめて書かれています。この下左ですが、日の出屋という乳製品を販売する店の挿絵です。ここに書いてある文には「世をうしと誰がいうべき、これやこの、いい薬ある世にあいつつ」と記されております。「この世は鬱陶しいと誰が言っているのか、こんな良い薬(乳製品のこと)がある世の中に生まれあわせたのだからまんざらでもない」と言う意味です。さらに本文では、当時の日本人が牛乳を飲んでいることが皮肉をこめて書かれています。意訳すると、「世の中の人はこぞって牛鍋を食べなければ開化に乗り遅れた者とされる。遠方の人は人力車で、近くの人は銭湯帰りに寄って牛乳を飲んでいる。全くおかしな世相だ」と、そうした人達を「鳥なき郷の蝙蝠(こうもり)」と酷評しています。

牛乳考・屠蓄考

維新になって江戸時代に比べ世の中がこんなに良くなったことを明治政府が喧伝するために、近藤芳樹に「牛乳考・屠蓄考」を書かせました。この内容は天皇陛下でも牛乳を召し上がっており、偏見を持たずに飲むべきだということも記されています。

前田留吉・喜代松牛乳賣捌所

民間人の前田留吉が「牛乳賣捌所(ぎゅうにゅううりさばきしょ)」(牛乳販売店)を開設し、明治10(1878)年に読売新聞に出した広告文です。意訳すると、「いつもご愛顧を賜っております。牛乳の定価を下げて一層、販売に励みます。牛乳は外国の医師も飲用を進めています。ただし、新鮮でなければならず、特に子供には特に注意を払っていただきたい。当店は搾り立ての牛乳を配達しています。遠隔にお住まいの方には郵便でお届けします。万一、腐敗していた場合はお取替えいたします。」と言っています。

西洋型チーズを紹介した明治初期の書物

こちらは明治に翻訳された西洋型チーズの製造法を紹介した文献を示したものです。

重修牧牛手引書

「重修牧牛手引書(じゅうしゅうまきうしてびきしょ)」は西洋式の西洋技術を製造機のイラストと一緒に記載されたものです。当時ゲールボーデン社から煉乳が大量に輸入されていました。それを抑制し国産の煉乳を成長させ、それを育児用に使おうとする意図もあってこの本が出されたとの指摘もあります。

追いつけ史観

「追いつけ史観」についてです。貝原益軒が「養生訓(ようじょうくん)」を書いています。この人の健康観は贅沢をせずに禁欲して質素に生活することが健康の源だとしました。明治初期の思想家でもある西 周は、貝原益軒と全く逆なことを言っています。「日本人は贅沢をし、美味しい物を沢山食べるべきである。そうすれば健康になる。一人が健康になれば、隣人も健康になる、そしてひいては国全体が健康になる。」と言っています。この考えは今日の公衆衛生学の基礎を為したと言えるのではないでしょうか。
福沢諭吉は「日本婦人論」を著しています。その内容は過激で、人間は優れた人と劣った人は遺伝的に決まっている。優れた遺伝子を子孫に伝えていかなければならないと読み取れるところがあります。その弟子である高橋義雄は、著書「日本人種改良論」の中で、更に過激な論調を展開しています。彼等の思考の基調になるのは西洋人のほうが優れていると言う欧化思想です。これは、西洋人に対する抜きがたいコンプレックスがあったからではないでしょうか。彼らの本にはその思想から来る差別的なことが書かれています。これに対して、栄養学者の鈴木梅太郎は、「牛乳を飲まない東洋人は体力、知力において発育が十分ではなく最高文明に達することは出来ない」としたマッカム博士の言葉を引用しながら「兎に角、日本人は頑強な体力を作るべきだ。この為に国家は百年の計を樹て酪農振興を図るべきで、単なる経済上の問題ではない。(もっと乳製品を摂るべきだという趣旨)」と論じています。

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