第81回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

乳糖とαラクトアルバミンとリゾチーム
哺乳類が誕生する前に、α-La(アルファ・ラクト・アルブミン)というものが出現しました。これは、乳糖と非常に関係の深いタンパク質です。乳糖はガラクトースとグルコースが結合してできたものです。ミルクのみに存在する非常に特異的な糖質です。ガラクトースとグルコースを結合するためにはガラクトシルトランスフェラーゼという酵素が必要になります。ところが、この酵素だけでは上手く乳糖は作れません。そこでαLa(アルファ・ラクト・アルブミン)というタンパク質が必要になります。つまり、このα-La(アルファ・ラクト・アルブミン)のアシストがなければ乳糖は合成されません。

進化の流れをもう一度見ますと、抗菌成分であるリゾチームが存在していました。これが変身してα-La(アルファ・ラクト・アルブミン)になったということが、現在判っております。リゾチームとα-La(アルファ・ラクト・アルブミン)は非常に構造が似ておりますが、後者には前者が持っていた抗菌作用はありません。抗菌作用はなくなりましたが、α-La(アルファ・ラクト・アルブミン)はガラクトシルトランスフェラーゼを助ける役目を持った訳です。リゾチームからα-La(アルファ・ラクト・アルブミン)になるまでには1億年以上もの膨大な時間がかかり、その間に自然界の遺伝子組換えが起こったと言えます。
何故、ここまでして乳糖を合成する必要があったのか。ガラクトースとグルコースをそれぞれ単独で摂取すればいいのではないかと思うわけです。しかし、どうしても乳糖に合成しなければならなかった理由がある訳です。

乳糖の役割は(1)エネルギー源。(2)は血糖値を正常に維持する。(3)浸透圧を調整する。といった役割・機能があります。
これらに加えて大切な働きがあったのではないかと思います。それは、赤ちゃんが胎内にいた時は無菌状態ですが生まれたら雑菌だらけの世界に出てくる訳です。雑菌の中には良い菌もいれば悪い菌もいます。悪い菌が赤ちゃんの体内に入り増殖をすることは赤ちゃんにとっては好ましい状態ではありません。乳糖を分解してグルコースを利用できる菌と乳糖を分解できない菌があります。例えば、乳糖を分解できる菌の代表的なものは乳酸菌、分解できない菌として、例えば大腸菌があります。
大雑把な言い方ですが乳糖を分解できる菌は味方、そうでない菌は敵とします。味方と敵を識別する「踏み絵」のような役目を乳糖が果たしている。そう考えるとガラクトースとグルコースを合成する必要があった。合成せずにそれぞれ単独で存在させておくと、乳酸菌も大腸菌もグルコースを摂取して増殖してしまう。それでは危険であると思います。
そのために面倒なことをしてでもガラクトースとグルコースを合成させることが必要で、ガラクトシルトランスフェラーゼの能力を発揮させるためにもリゾチームをα-La(アルファ・ラクト・アルブミン)に長い時間をかけて変身させる必要があったのだと思います。その結果、味方の菌は取り入れ敵の菌は排除する必要があったと考えておりますが、これは私見です。

  • 乳糖のない乳
  • 乳糖は脳のエネルギー源では?

乳糖はミルクの中だけにある糖ですが、乳糖の無いミルクはあるのか。これは、あります。オットセイ、アザラシや鯨といった水生の哺乳動物には乳糖が無くて、α-La(アルファ・ラクト・アルブミン)も存在しません。
それでは、何がエネルギー源になっているのかと言いますと、それら水生動物のミルクには脂肪が多く含まれています。半分くらいが脂肪ですから、ドロっとしたミルクです。冷たい海水で生活するわけですから、脂肪の多いミルクで体温を維持し、エネルギー源になっています。但し、糖質は脳にとって唯一のエネルギー源だと古い教科書に書かれています。水生哺乳類の場合、乳糖も単糖類も無いわけですから脳に唯一のエネルギーである糖質が補給されないと脳死状態になってしまうのではないか。
最近の研究では、脳に脳関門があり単糖類はここを通過できますが脂肪酸は通過できない。但し、脂肪酸が変化してケトン体になると脳関門を通過できます。脂肪が多いわけですからその一部がケトン体になって脳にいくため脳死しないと考えられております。

乳・乳製品には美肌効果もあります。ミルクは何の目的で進化してきたのかと言うと、もともと卵からミルクに変化していくためには水分蒸発を抑える機能が必要だった。そうすると、ミルクには水分蒸発を抑える機能が残っているのかもしれません。日本最古の医学書「医新方」にはミルクを飲むと肌が滑らかになると書かれているそうです。

乳糖とαラクトアルバミンとリゾチーム
牛乳の中に含まれているリン脂質の一部であるスフィンゴミエリンという物質があります。ミルクに多く含まれているスフィンゴミエリンを20~40歳台の人に食べてもらった実験です。
この実験は秋口から冬季にかけて実施しました。冬季はどうしても肌が乾燥し肌荒れします。左目の下の水分保持性を計測したものです。6週間後経過すると同量のプラセボの大豆のレシチン場合は保水性が下がってきますがスフィンゴミエリンは実験開始前と殆ど変わらない。したがって、スフィンゴミエリンの水分保持力が働いたと考えられます。食べるのを止めて2週間するとスフィンゴミエリンの効果もなくなってしまう。

脂肪球被膜の美肌効果
同じような実験があります。これは、よつ葉乳業の方の実験です。脂肪球皮膜という脂肪の周りに付いている膜があります。その膜にはリン脂質も入っていますが、これを北海道の女性に脱脂粉乳と脂肪球皮膜の粉末を食べてもらいます。4週間経つと脂肪球皮膜を食べた方が水分の蒸発が少ないことがわかります。リン脂質には水分保持能力があるということはミルクの進化から考えてミルクの機能として一部残っていると考えられるのではないでしょうか。

β-ラクトグロブリンのある哺乳類とない哺乳類
β-ラクトグロブリン(β-Lg)はホエータンパク質の一つでアミノ酸組成が非常に優れています。食品タンパク質の中で最も優れたアミノ酸組成があります。分岐鎖アミノ酸が多く筋肉等の発達に役立つタンパク質です。このタンパク質を持っている動物と持っていない動物がいます。ヒト、ネズミ、ウサギ、ラクダは持っていません。ヒトにはβ-ラクトグロブリン(β-Lg)の遺伝子だけはあるがタンパク質を合成していない。タンパク質合成がストップさせられています。なぜ、動物によって違いがあるのか、β-ラクトグロブリン(β-Lg)はどのような役割を果たしているのか、未だに判っておりません。
最近の報告によれば、子宮内膜にグリコデリンというタンパク質がある一定期間だけ発現するそうです。それとβ-ラクトグロブリン(β-Lg)の構造が非常によく似かよっていることが判り、何か関係があるのではと注目され始めました。まだまだ、詳しいことが判っておりません。β-ラクトグロブリン(β-Lg)が本来は昔生殖に関係していたのかもしれず、生殖に関係するために優れたアミノ酸組成を持っていなければならなかったのではないでしょうか。

モッツァレラチーズ

  • pH変化に伴うカゼイン中のCaとP含量
  • pHとミセルの水和

皆さんご存知のモッツァレラチーズですが、低温殺菌されたミルクにレンネットを加えて、乳酸菌でpHを5.2~5.4の狭い範囲に制御します。そして、お湯の中で練ってまるめるとモッツァレラチーズになります。非常によく伸びる性質を持っています。なぜ、このような性質を持つのかという理由は判っていません。しかし、pH5.2~5.4の範囲がカゼインミセルの中に大量に含まれているリン酸カルシウムが殆ど残っていない状態になります。その時に、それまでは硬いカードが伸びます。この理由は判っていませんが、pH5.2~5.4付近で水とよくなじむようになる性質があることはわかっています。
もともと、カゼインミセルの構造が判っていませんし、その中でリン酸カルシウムがどのような役割をするかが判っていません。その関連が判ってくればなぜモッツァレラチーズが伸びるのかが判ってくるのではないかと期待しています。

まとめ

哺乳類にとってカゼインミセルの存在意義は、カゼインミセルこそ乳の基本であること、仔の生命維持と成長にとって必須のタンパク質とリン酸カルシウムを大量に、かつ安定供給する。この難題を解決したのがカゼインミセルであり、その発明をしたのが哺乳類。哺乳類だけがこの難題を解決できた。カゼインミセルが発明されなければ哺乳類、そして私たちは存在しなかった。そして、私たちに最高の栄養と健康を、おいしさとバラエティに富んだ食生活を与えているとい言うわけです。

単にミルクは白いということですが、その奥は非常に深く、未だに判っていないことが山のようにある。あるのですが、私たちは哺乳類のご先祖様とミルクとカゼインミセルに日々感謝しながら乳製品を食べなければならないと思います。

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