第79回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

9. チーズの嗜好性の特性

カマンベール、ゴーダ、クリーム、エメンタール、ブルー、プロセス等のチーズを私たちはどのように評価しているのか。
「チーズを食べる頻度」では、週に1~3回位が60~70%です。また、女性は男性より食べる頻度が高い。

チーズを食べる頻度

「チーズを食べる頻度の変化」では、頻度が増加しています。理由は、健康に良いからという理由が多く、女性と男性では理由が違います。女性の場合は健康に良いが一番で、男性の場合はお店の品揃えが一番です。

チーズを食べる頻度の変化

「種類についての認知度と食経験」の比較では、やはり知っているだろうと思われるものがよく知られていました。食べた経験があるかとの問いには、知っているけれども食べたことがないという割合が高いことがこの調査で分かります。

種類についての認知度と食経験

チーズの種類の好き嫌いは以下の図を参照下さい。

カマンベールチーズクリームチーズ

ゴーダチーズエメンタールチーズ

ブルーチーズプロセスチーズ

「最も好きなチーズ、嫌いなチーズ」ではカマンベールが最も好き、嫌いなチーズはブルーチーズです。そして最も好きなチーズとしてカマンベールを挙げる人はゴーダより多い。

最も好きなチーズ、嫌いなチーズ各サンプルに対する好みの近縁度

各サンプル(チーズの種類)間における「好みの近縁度」を見るとプロセスチーズが好きな人はゴーダチーズが好き、クリームチーズを好きな人はカマンベールチーズが好き、エメンタールチーズが好きな人はゴーダチーズも好き、ブルーチーズが好きな人はエメンタールチーズが好きとなる。ここから分かるのは、クリームチーズとカマンベールチーズに共通するテクスチャー(なめらかさ)が、好まれる要因ということです。プロセスチーズとゴーダチーズの近縁から見ると風味(うま味)となる。エメンタールチーズとゴーダでもうま味、ブルーチーズとエメンタールチーズでもうま味と個性が強いということが言えます。
以上のことから日本人が食べたいと思うチーズは、どういったものなのでしょうか。

日本人が食べたいと思うチーズ

「おいしさ」と「健康」要素が重要になります。健康要素は、チーズを食べる量が何で増えたかというところと重なります。嗜好調査からはうま味がある、苦味がない、滑らかな口当たり、これらが非常に重要なことです。それと関連して臭いがないこと、チーズらしい匂いがあることです。健康要素では塩分が少ない、低カロリー、身体に良い栄養成分とか生体調節成分が存在することです。これらの多くは全て熟成中に蓄積される成分でもあり、熟成によって健康要素も作られています。熟成を上手く進めるためには塩分が必要となります。また、おいしさを引き出すためには脂肪分が必要になります。しかし、塩分、脂肪分ともに高摂取量が気になるところです。
チーズとしての品質を維持しつつ、低脂肪チーズ低塩分チーズ製造への技術開発が必要であると思います。日本人好みのチーズへの技術的な対応ですが、おいしさと健康要素を取り入れるために原料乳、乳酸菌、凝乳酵素の工夫とそれらに対応する技術が重要なものになります。以上のことから、今後、我々が望むチーズはくせのないクリアな風味で生体調節機能が多く含まれていて、低脂肪、低塩のチーズということになります。

10. チーズの解説

今回の講演でお話したチーズについて解説します。これらのチーズはそれぞれ発酵の仕方が異なるということ。微生物の使い方が異なるということをお話しました。

ゴーダチーズ

例えばゴーダチーズの場合は中温で働き、ホモ型、ヘテロ型の発酵をする乳酸菌が使われます。ヘテロ型というのは発酵によって炭酸ガスやアルコールを出す乳酸菌を言い、ホモ型は乳糖から乳酸だけを出すものです。ゴーダチーズの場合は、これら両タイプの乳酸菌を使っています。ゴーダチーズは熟成が非常に繊細で、特に元気な乳酸菌を使わなければ正常に熟成が進みません。なぜかというと、熟成の初期には乳糖が残っているため、それを早く分解しないと異常発酵に繋がります。そこに食塩を加えれば異常発酵を防げるのですが、ゴーダチーズの場合は形にした後に食塩水に浸け、徐々に食塩が中に浸透していく方法がとられます。食塩がない熟成初期は、低温において異常発酵を防ぐしかありません。かつ、異常発酵につながる乳糖を早く分解するためにカード(固めたもの)をお湯で洗います。洗うことでホエイの濃度を減らすことができます。すなわち乳糖が減ることになります。そこで、元気な乳酸菌を使うことによって乳酸を多く産生し、チーズ中の酸性度を低くすることで他の細菌の生育を抑制し、異常発酵を防ぐことができます。
チェダーチーズはホモ型乳酸菌で熟成させます。牛乳を固め、そこからホエイの一部を取り除いたカード(凝乳物)に食塩を直に加えます。そのためにゴーダチーズのように熟成初期の低温という温度を気にしなくても比較的うまく熟成が進みます。
チーズ製造での工程には、それぞれのチーズの特徴を引き出す根拠の裏付けがあります。その内容の多くは熟成期間に影響を与え、品質に大きく関与します。

カマンベールチーズ

カマンベールチーズは、乳酸菌と白カビと酵母の3つの微生物による共同作用です。その一つは乳酸菌であり、白カビと酵母は表皮にあります。チーズ内部の熟成は乳酸菌、表面の熟成は白カビと酵母によります。乳酸菌によって乳糖を分解してpHを下げることで、酸性環境にします。そこにカマンベールティーというカビが生育します。酸性環境のチーズの表面で白カビ、カマンベールティーが増殖し、今度は産生されるアンモニアによってアルカリに環境が変わって行きます。アルカリ化によって酵母が生育できる環境に変化します。さらに、この作用が進んでいくとアンモニア臭が感じられるようになります。この生育過程にてカビは、根元からタンパク質を分解する強い酵素を放出します。このことによって、カマンベールチーズは、短時間でタンパク質が分解されることになります。乳酸菌、カビと酵母の共同作用が巧みに組まれた製品だと思います。

エメンタールチーズ

エメンタールチーズは、孔があいています。ガスホールといって孔があるのが特徴です。このチーズでは高温乳酸菌が使われます。乳酸菌はホモ型でガスを産生しませんが、チーズ中にはガスによる孔が見られます。これは、2次スターターといってガスを産生するプロピオンサン菌を加えているからです。チーズの熟成が進むとともに乳酸が産生されてpHが酸性側に傾くと同時に孔を作る原因となるプロピオン酸菌の生育によって炭酸ガスが増えます。50~60日で発酵するように温度調節をしたり、乳酸菌の活性とプロピオン酸菌の活性を調節するという複雑な製造工程となります。乳酸は30~50日にピークを迎え、炭酸ガスは60~70日でピークとなります。ここでは温度調節が必要になります。高いままの温度で熟成させると、ガスホールが大きくなりすぎてチーズが破裂します。エメンタールチーズの評価の一つに、ガス孔の大きさがあることから熟成の手腕が試されることになります。

パルメザンチーズ

パルメザンチーズは、ホモ型の高温乳酸菌でガス孔をつくりません。このチーズは長期間熟成を必要とするチーズです。長期間であることは、脂肪酸化を気にしなくてはなりません。そこで、パルメザンチーズは脱脂した原料乳を使います。長期間熟成させるには脂肪を除くことが条件の一つ、それと長期間熟成、保存であることから、そこに残る微生物が異常発酵の原因となることから、行程中に高温でのクッキングが行われます。固めたカードからホエイを取り除くために、53~55度の高温で行います。クッキングの一般的な温度は、高くても40度程度です。パルメザンチーズは温度を上げて、負の要因となる微生物を死滅させますが、乳酸菌がそこで死んでは何もならないので高温に耐える乳酸菌を使います。そのことで、長期間、脱脂されたタンパク質に乳酸菌や乳酸菌由来の酵素が作用して、カゼインタンパク質が多く持っているグルタミン酸を遊離し、うま味を生成することになります。

ロックフォールチーズ

ロックフォールチーズ、青カビのチーズは乳酸菌が生成する酸によって凝乳酸味を作っています。このチーズは、食塩をかなりの量加えて雑菌を制御しています。それと同時にロックフォールティーという脂肪を分解する酵素を多く持つカビ使います。ですから青カビのチーズからは脂肪を分解した香り、ケトン、アルコールエステル、ラクトン等の香りがします。多くの方が、この香りが苦手だといいます。カビは生育に酸素を必要とします。酸素によってカビの生育を調節すると同時に、カビは自ら粘液を出します。そして、内部にある亀裂や空孔の酸素の多い、少ないによって青カビは自ら成長を調節します。青カビチーズは、熟成調節のためにブレビバクテリウムという細菌を表面に生育させて、そこで粘膜を作らせて孔をふさぎます。そうすることによってカビは酸素が断たれ生育が止まります。
チーズ製造者は、それぞれの微生物間に起こる共同作用を巧みに操り、目標とする完成品を作り上げています。多様で、特徴が付与されたチーズのできるまでを想像しながら食べることこそ楽しみ方の一つだと言えるのではないでしょうか。

11. まとめ

発酵食品は原料と微生物の共同作用の産物です。チーズにも発酵食品としての特徴があり、発酵工程は工夫によってチーズの多様性を引き出してくれるものです。発酵、熟成は、その多様性を引き出すとともに新たな機能が付与されることになります。チーズは発酵食品であり、乳製品を代表する食品であると考えます。また、チーズの発酵は熟成によって行われることでその熟成は、微生物が持つ酵素が主となってミルク成分を低分子化していること。更に熟成によって付与される新しい機能は日本人の食に対する志向(嗜好)を満たすことになりますし、我々が求めるおいしさを満たすものでもあると思います。
「楽しみ方」ですが、これは個人差もあることですし、難しい課題でした。具体的な楽しみ方は今回お示しできませんでした。健康な動物からの良質なミルクと微生物の微妙な働きによって形成される、多様なチーズのおいしさを楽しむことが本来の「楽しみ方」だと思います。世界には何千種類のチーズが存在しています。最後に良質な原料乳を供給してくれる牛と巧みな働きをしてくれる微生物、そしてそれらを制御する技術力に感謝して終わります。

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