第79回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

8. チーズの健康維持特性

1990年代以降の研究によって、牛乳に含まれる脂質の摂取と循環器系疾患リスクの直接的な相関は示されていないことがわかってきました。同量の乳脂肪をバターとチーズで摂取した場合、チーズとして摂取した方が血清コレステロール値は低いということです。この現象の詳細なメカニズムは分かっていないのですが、発酵作用がその要因になっているとされています。乳酸菌あるいは乳酸菌由来酵素によって生成される代謝産物などの共同作用です。例えばバターとチーズでは同じ脂質でありながら、両者間で異なる点は発酵と言う過程の有無であり、発酵による代謝産物が低い血清コレステロール値に影響していると推測されます。
アメリカのデータでは、乳や乳製品の摂取の最も多いグループは、非摂取グループより脳卒中、心臓発作の発症が15%低かった。次にカナダの循環器系の疾患データによると、乳製品の摂取が多い群では収縮機能、血圧、あるいはLDLコレステロール、アポBといってLDLの唯一のアポタンパク質、躯体を作るタンパク質ですが、これらが有意に低くなるということです。これらの詳細なメカニズムもまだ分からないのですが、発酵による代謝産物が影響を与えているのだろうと言われています。
また、脂肪摂取量の多いフランス人に循環器系疾患が少ない。これは赤ワインを多く飲んでいるフランス人は、赤ワインに含まれるポリフェノールが循環器疾患を低くしているのだろうということから「フレンチパラドックス」と言われていますが、そのことと同様にチーズ消費量と循環器系疾患との高い負の相関があるといわれています。

チーズ摂取量と循環器系疾患死亡率

上記グラフを参照すると、チーズの消費量が最も多いフランスでは循環器系疾患死亡者数が最も少ないことを示しています。赤ワインのポリフェノールのように明白な作用はわかってはいませんが、ここでも発酵食品であることの関与が一つの要因として考えられます。
いずれにしましても食習慣、食文化が背景にあると思われます。食する脂肪が何由来であるか、ミルクからの脂肪なのか加工植物油脂からの脂肪かによって健康への寄与は変わってくることが、これらの調査研究によって示唆されます。
トランス脂肪酸あるいは、飽和脂肪酸についても何由来の脂肪なのかということが非常に重要になってきます。

免疫機能を高める効果が最近注目されています。免疫機能と疾患、特に癌ですが免疫を高めることによって、そのリスクを低減するということが言われています。しかし、残念ながら人は歳を重ねるごとにその機能が低下していくことになります。加齢とともにタンパク質合成能力も低下してきますので、それを補足するためにもタンパク質を摂取しなければなりません。それも良質なタンパク質、つまり牛乳中に多く含まれるリジン、メチオニンを積極的に多く摂れることが必要です。その意味から、ミルクタンパク質はその条件を満たし、さらにチーズの場合は高いタンパク質含量を有することから、代謝疾患を予防すると伴に免疫機能を向上させることが言われています。ですから高齢になればなるほどリジンやメチオニンを多く含むタンパク質を摂る必要があると言うことです。

血液中の糖の数値を示すGI値(グリセミックインデックス)ですが、チーズと共に摂取した時はGI値が低下するという報告があります。チーズは製造上、その過程でホエイを排出することでホエイ中に存在する乳糖も排出されること、さらには、先ほども言いましたが熟成中の乳酸菌によって糖化されることからチーズ中の糖質含量は極めて低いのです。ですからGI値も低いことになります。さらに糖質含量の高い食品と伴にチーズを摂取した場合には、胃の中で糖質の滞留時間を延ばすことが可能になるためにGI値を低くすることが推測されます。例えば、白米をGI値100とした場合、カレーライスの場合はカレーと一緒に食べるのでGI値82、更にチーズをトッピングした場合67に下がるデータがあります。パンは92とするとチーズと伴に食べると71に下がります。GI値を下げるすばらしい食品だと言われています。

次に、虫歯予防効果です。虫歯は歯のエナメル質の脱灰化です。それを減少させるものとしてタンパクとリン酸カルシウムが結合した状態の牛乳タンパク質、カゼインが挙げられます。カゼインは、リン酸カルシウムが結合した形になっていて、これに脱灰化を減少させる役割があると言われています。また、カゼインがエナメル質表面に付着して保護すると言われています。それと噛むことによって唾液分泌物が、プラーク(歯石)のpHの低下を抑え虫歯になりにくくしています。噛むということ即ち唾液を分泌することが虫歯予防になるということです。

チーズは牛乳成分が濃縮されています。牛乳成分の「優等生」であるカルシウムも濃縮されていることが、チーズの有意性を示す一つです。牛乳中のカルシウムは、吸収率が高いとよく言われます。その要因としてCPP、カゼインホスホペプチドというものの存在が挙げられます。カゼインタンパク質の一部を構成しているカゼインホスホペプチドが熟成過程中に分断され遊離することからチーズ中のカルシウムの利用性はより高くなります。また、一般にカルシウム含量の高い食品を摂取した後は、骨吸収を促進し骨形成を抑制するPTHの産生が抑制されます。PTHというのは副甲状腺ホルモンでして、それを抑制することでカルシウムの利用性が更に高くなります。

乳製品の摂取と血圧ですが、これも多くの食品に言えることですが、乳製品の摂取が多い人はそうでない人よりも血圧が低いと言われています。これも、タンパク質が熟成中に低分子化されていく過程で生成してくるペプチドが、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を持つことから血圧を調節する働きをします。更に、カルシウムを多く含む乳製品の摂取により、結腸癌発症のリスクが低減される可能性が示唆されています。
チーズを食べることによる食塩摂取量を気にする方が多くいます。チーズを作る熟成を上手く進めるためには、ある程度の食塩量が必要になりますが、チーズ摂取量からすれば僅かだと言われています。チーズ中の食塩含量は、だいたい2~3%です。100gのチーズを食べた場合、食塩量は2~3gです。食べる量によりますが、あまり気にする必要はないと思います。しかし、食塩摂取量は少なくしなければならないことから、低い塩濃度でも熟成を上手に進められる技術も考えていかなければなりません。

カマンベールチーズとカルシウムについて。カマンベールチーズの表皮(白く少し硬いところ)には、カルシウムが多く濃縮された状態で存在します。カルシウムは熟成中に徐々に表皮のカビ部分に移行します。カビの代謝物であるアンモニアによってアルカリ化して、遊離状態で存在しているカルシウムがリン酸カルシウムとして不溶化され沈着します。
カルシウムの利用性です。カルシウムは消化されて小腸を通過、大腸に近づくと小腸上部は微酸性環境なので、カルシウムが遊離した状況で存在するため、腸管を単独で通過することができ吸収されます。しかし、大腸に近くなるとアルカリ環境になってきます。アルカリ環境下でカルシウムはリンと結合して不溶性になってしまうので、不溶性のリン酸カルシウムは腸管を通過することができず、吸収されないことになります。ところが、牛乳やチーズでは多くの酸性アミノ酸で構成されているカゼインホスホペプチドが存在することから、その近くに存在するカルシウムはアルカリ化、即ち不溶化するのを防がれ腸の下部まで単独で腸を通過することができるため利用性が高いということになります。

タンパク質の低分子化とは、タンパク質が分解されることによりペプチド断片が生成されることです。生成ペプチドによって抗酸化作用、血圧調整、免疫機能向上、アルコール性肝障害低減作用等を示すことになります。次にタンパク質を構成するアミノ酸ですが、牛乳、発酵乳とチーズ中に遊離で存在するアミノ酸を比べると100g中に、カマンベール500mg、ゴーダ(10ヶ月)560mg、チェダー(11カ月)788mgで牛乳5.92mg、発酵乳23.61mgとなり、チーズ中に多いことがお分かりかと思います。
下表は、チーズ中ペプチドとして解明されたものです。

チーズ中の生理活性ペプチド

この他、未知のペプチドも沢山存在します。血圧調節や抗酸化作用を示すペプチドや鎮静作用を示すペプチドといった様々なペプチドがチーズ中に顕在化します。
低分子化は様々な酵素が、例えばタンパク質に順次アタックし、ペプチド、アミノ酸へ、そして更にアミン、アンモニアなどへ、乳糖はグルコース、ガラクトースへ、脂質は脂肪酸、各種揮発性成分へと変化します。
下図は、チーズ熟成中の主要成分の変化です。

チーズ熟成中の主要成分の変化

ここでは食感に影響するもの、あるいは味や香りに影響するものとして大雑把に示しました。いずれも牛乳の主要成分からチーズを作る際に使われる酵素によって生成されています。このことが、熟成中に起こっていることになります。

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