第78回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

北海道の生乳生産量は370~380万tありますが、生乳出荷規模階層別生産乳量をみると、その内の130万tは1000頭以上の酪農家が搾っていることになります(下図)。1000t未満の酪農家の出荷乳量は、どんどん落ちてきている。放っておくと、落ち続けて行く訳ですが、規模拡大によりこの落ち込みを補って、更にプラスの増産に持ってきたといのうのが、このグラフの意味するところです。自然減という事態が、平成12年にありました。この自体は北海道で初めてでして、その時は大変驚きました。そこで、生産を如何に進行するかというプロジェクトをホクレン内部で立ち上げました。結論は、1000頭以上の規模拡大を目指す酪農家を応援していこうと、大規模法人化のお手伝いを続けてきました。その結果、大規模酪農家の出荷乳量が増えてきたわけです。平成23年あたりから、伸びが鈍化していることがお分かり頂けると思います。これが現状の問題です。

生乳出荷規模階層別生産乳量の推移

つなぎ飼いから、先程ご説明したフリーストール、ミルキングパーラーという規模拡大に進んだ酪農家がどれ位増えたかと言うと、北海道農政部の調査で、平成元年度には171戸しかなかった(下図)。平成12年度くらいから、もっと大規模な設備投資も増えてきましたが、平成17年度くらいから伸び率が止まってきて、平成23、24年度の2年間はゼロになっています。

フリーストール・ミルキングパーラーの導入状況

なぜ、規模拡大する酪農家がいなくなったのか、分かり易く言いますと、平成22年度10月に当時の管首相がTPPに入ると言ってしまった。TPPに参加することになれば、酪農は打撃を受けることになる。そのような状況の中で、規模拡大のように数億円もかかる大きな投資をこの時にやっていいものだろうか、といことになりますよね。酪農家の立場になったら、今のTPPの進捗方向では、「後継ぎの息子も帰って来るし、大規模を目指そうか」と30年に渡る大きな借金を背負おうという気持ちになるでしょうか。やはり、そうはならなかったのです。これが、現状の問題です。つまり、仕方のない理由で酪農を止める方もいるのですが、その乳量を皆で大規模になることで背負ってきた、その背負う人々がピタッと止まってしまった。これが今の状況です。1戸当たりの搾乳量の伸び率は、平成22年度くらいから規模拡大する酪農家が減ってきた。そして、この2年間落ちてきた。これからどうなるのか。平成23年度に、大規模酪農のための設備の増加はほとんどなかった。規模を拡大すると、2~3年間は乳量が伸長します。今、伸長している状況は、平成22年度に規模拡大した酪農家がいらっしゃったことによります。この後は、マイナスになる可能性が大きい。この点が我々にとって頭の痛いところです。

一頭あたり乳量の伸び率(%)

もう1つの要素。1頭あたり乳量の伸び率、これも大切な要素です(上図)。北海道では、「乳牛検定」というのをやっています。略して「乳検」と言って、毎月、毎月、1頭1頭の乳量を計り、成分も計ります。乳質、衛生的に問題がないかもやります。その莫大なデータは、如何にたくさん搾るかというデータとしても使いますが、もう1つ目的があります。牛のお母さんは人工授精で、場合によっては、常に残念なことですが外国の牛のお父さんの精液をつけてしまう。あるいは、日本の優秀なお父さんの精液をつける。このように、牛のお父さん、お母さんを作っていく。この両親を作る時に、この牛の系列にこの牛の系列をかけあわせる、といった雄の系列と雌の系列がこの検定でわかります。年度を追って、1頭あたりの乳量は徐々に増えていっています。この検定から、良い牛を選びだしてくる。これを酪農家の作業として毎日毎日やっています。お父さん牛の能力は、色々な機関がきちんと調べて、この系列とこの系列をかけあわせると乳量が増えるということをやっています。こういう努力をやっている訳ですが、最近、国がお金をくれなくなりまして、ブレーキがかかった状態です。今、政府に助成の継続をお願いしている最中です。また、餌の与え方を上手にやったら、乳量は増えます。しかし、伸び率の増減の1番大きな原因は、北海道の非常に厳しい自然です。例えば昨年、牧草の収穫時期に天候が悪かったですし、春先はすごく寒かった。それだけで、1頭当たりの乳量の伸び率は低くなってしまいます。一昨年は、豊作で非常に良い牧草がとれました。そうすると、乳量の伸び率は高くなります。その前の年、6月牧草収穫時期に晴天が2日しかなかった。牧草を刈り取れない。牧草を刈る機械を畑に持って行っても、ぬかってしまい出てこれなくなってしまう。こういう年が2年続くと、マイナスもしくは低い伸び率となってしまいます。厳しい自然要件によって、伸び率が変わってきてしまう。これも北海道の現実なのです。

生乳伸び率(要素別)の推移

これまでご説明してきたことを全てまとめると、酪農家は減りましたが、減った分を1戸当たりが伸ばしてきた(上図)。更に平成24年度は牧草の出来も良く、1頭あたりが伸びています。平成25年度は3%程度の離農で、特に多かったわけではありませんが、規模拡大が減り、1頭当たり、1戸当たりが伸びなかった。実は天候も悪く、牧草も良いものが刈り取れず、1頭当たりの乳量が伸びなかった。その結果、生乳生産は98%しかいかなかった。
我々は今後、どの部分をやらなければならないのか。増産のためになすべきこと。もちろん、離農の歯止めをしたいわけですが、何が1番良いのかというと、後継者が必要です。卒業して様々な職業に就いている若者に、「酪農は本当にすばらしい」「北海道に行って(帰って)やってみないか」という環境を何とか作れないものかということが、離農の歯止めとなります。それと、新規就農。これは、ずっと続けて取り組んでいますが、大きな施策を実施しないと、つまり、5000万円なり1億円のお金を何とか自前で用意するとなると難しい。
1戸当たりの搾乳牛頭数、これが今、1番厳しい状況です。もう一度、酪農家の皆さんに投資をしようという機運を作っていかなければ、いけないと思っています。私どもが一番やらなければならないのは、この部分だと思っています。投資をするから、北海道に帰って来て酪農をやってみないかという会話を酪農家の方にやってもらいたい。TPPがあるにも拘わらず、このことを勧めるということは、本当に勇気のいることですが、そろそろやらないと大変なことになると思っています。
1頭当たりの搾乳量を伸ばそうと、特に良質粗飼料、草から見直し、牧草地をしっかり管理していこうという運動を遅まきながら、一昨年から始めています。

<増産のためになすべきこと>
・酪農家戸数:離農の歯止め(後継者呼び戻し)、新規就農
・一戸あたり搾乳牛頭数:規模拡大(投資)、牛舎の空きを埋める工夫
・一頭当たり搾乳量:良質飼料給与(特に粗飼料)、乳牛改良

こういった3つの対策をしっかりやっていかなければならないのですが、最大の問題は、規模拡大の投資のことなのです。北海道の酪農の経営者の年齢別の人数のデータを見ると、65歳になると皆止めてしまいます。60歳の酪農家の人数が最も多く、今後、離農していく可能性はあります。ただし、このことで大変なことになるのかというと、これだけではならない。この世代の方々にどれ位後継者がいるのだろう。60代の酪農家の全体の5割を超える方々に、もう既に後継者がいます。酪農に就労していないが、確実に帰って来る後継者がいるという方々を入れると、結構高い率で後継者はいます。ただ、この方々が帰って来て就農すれば、若い世代が増えるわけですが、全員が帰って来て酪農を続け、かつ規模の拡大がなければ、今と同じ量を確保できないことになります。後継者が帰って来た時に、親の世代が規模拡大しておいて欲しい。このことを、続けてやってきたから、維持できていたのが北海道なのです。もう一つ、後継者がいないという酪農家。子供さん達が非常に優秀で、一般企業に行ってしまったという方が多いです。後継者の就農の意志が分からないという方も、結構いらっしゃる。もちろん、若い世代でお子さんが小さい場合は、就農の意志は「わからない」という回答はわかりますが、50代以上の方で後継者の意志がわからないと回答した人は、実は迷っている状態です。子供を酪農に就労させても良いものかという気持ちになっていて、本当は子供に声をかけたいのですが、TPPもあるしという気持ちの方がかなり多いのではないだろうかと想定しています。こういった方々に、規模を拡大して、もう一度やろうと言える酪農を本当は目指したいということが、我々の最大の課題です。

酪農家の経営規模別戸数分布の推移

上図は、酪農家の経営規模別戸数の分布です。北海道の酪農家で、層が厚いのは300~500t位の方です。この層のプロフィールは、年齢的には高く、息子さんはいるのでしょうが、牛舎が古いのです。300~500tクラスの牛舎は、昭和50年代に建てた牛舎が殆どではないでしょうか。その牛舎で、連綿と経営をやってきた方が、息子を後継に呼び戻した時には、1000t以上の乳量の規模にもっていかなければなりません。そして先程申し上げた、フリーストール等の規模拡大をやっていく。なぜ、それが必要かというと息子が帰ってくると2家族になります。2家族になると、これまでのトン数ではやっていけません。2家族の生活費を出していくとすると、規模拡大して1000tクラスにならなければなりません。今、これが止まっている状態です。この状態を何とかしたいというのが我々の大きな願いです。具体的にはどのようにするのかというと、メガファームをどんどん作って来たのですが、メガファームにも問題点が出てきております。それは、投資額が非常に大きくなったこともありますが、人が集まらないことが大きい。世間の企業の中には、人が集まらないことが業務を停滞させていると聞くことがあります。都会ですら人集めに苦労している状態の中で、酪農のメッカといわれる地域は言葉は適切かわかりませんが、辺境の地です。冬は寒さが厳しいところです。そういうところまで来てくれる雇用労働というのは、そういう面からも厳しい環境にあります。従って規模拡大が止まったという理由の1つは、その面にもあります。そういった中で、我々が今考えているのは、家族経営だけで規模拡大ができないかということ。家族経営で規模拡大をする場合、牧草の方は先程のコントラクターが利用できる。労力が最も必要なのは、実は搾乳なのです。この労力は、3~4人必要です。それをロボット化することで、1000t規模の酪農を家族だけで経営できる。そういう新たな形態の規模拡大の構図を描けないかと考えています。もう既に、100戸はあり、非常に上手くいっております。ただし、搾乳ロボットを1台入れると、2500万円かかります。2台だとそれだけで、5000万円かかってしまうので、初期投資が大きい。これに何とか政策の力をいれていくことができないか。この様なことも含めて何らかの方法で、300~500t規模の人達に、1000t規模まで持って行ってもらい、息子に「それじゃあ帰って来い」と言ってもらう、こんな機運の北海道酪農に持って行きたいと考えています。

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