第75回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

21. 乳価値上(牛乳価格改定)の背景と課題

生乳生産費が大きく上がったことを背景に乳価の交渉に入った。最終的には酪農生産基盤の弱体化に対する危機感、つまり国産の牛乳乳製品の安定的な供給基盤が崩れていくという不安を抱かせる状況、さらにTPP等今後の動きも供給不安には加速になる可能性もある、ということで、飲用向けの乳価について特に都府県でのコストの増加を大きく捉えた乳価交渉であった。つまり、飲用向け用途に対し5円/kgの乳価値上げによって酪農家の経営コストを一部補填しようという考え方による結果であろう。
現在、乳価の値上げを受けて、流通・小売と乳業者が納入価格の交渉に入っている段階であり、報道によると、10月から乳業からの出荷価格1~4%程度の値上げということで進められている。円安も乳業経営に影響を与えており、企業の自助努力のみでは乳価の値上げ分を吸収できないため、納入価格の値上げをご理解頂くような交渉に入っている。
乳価値上げに至った酪農の課題として3点を挙げている。一つ目は、酪農生産基盤が弱体化しているという現状に対し、今回の対応で止まるのかという点である。この点に関しては、輸入飼料に依存した酪農の体質改善をしなければ止められないと考える。そのために、我が国の国土をさらに利用してエサを作っていくようなことを進める必要がある。多頭化している中で、農家の必要な面積が相当大きくなってきているため簡単なものではないが、できないとも言っていられない。生産者が主体的に取り組まなければならないと考える。
二つ目は、価格転嫁させていただいたとして、その小売価格が維持されるかという問題である。
以下のグラフは、飲用乳価と牛乳小売価格の動向を示しており、平成20年の3月を1と置いた指数で示しており、平成20年の3月に3円の乳価アップがあり、さらに平成21年3月に乳価アップがあり売値も上がったが、小売価格は維持されず、乳価アップ前の水準まで低下したことを示している。今回の小売価格引き上げ後、その価格が維持されるかが課題である。

飲用乳価と牛乳小売価格の動向

三つ目は、価格が上がることで、消費に対しマイナスの影響が出るのではないか、ということである。これに対しては、それぞれの事業者の努力は当然ではあるが、Jミルクとしても多様な観点からのカルシウムの価値訴求の他に乳タンパク質の有用性も積極的に発信していくよう考えており、研究者の方々と連携して進めているところである。

乳価値上(牛乳価格改定)の背景と課題

22. 生産者団体の理解醸成活動(中酪)

このような情勢の中で、生産者団体が理解醸成活動を展開している。下記は新聞に掲載したもので、中央酪農会議が作った理解醸成のための広告である。このような理解醸成を行う目的は、飼料価格の高騰に直面した酪農経営がどのような実態にあるのか、そして経営努力をしていることを伝え、価格の改定、値上げに対する理解をお願いする、ということである。テレビ、新聞、雑誌等の媒体を使ったり、セミナー等でパンフレットを配布したりしてこの活動を進めている。

生産者団体の理解醸成活動(中酪)

その活動の内容は、酪農は、「資源循環型農業の中核」、「国土保全と景観維持への貢献」、「生命産業としての保健休養機能や教育機能」を担っている。また酪農経営の現状として、「酪農家が減少して生産基盤が減少している。」、「生乳生産量の減少による国産牛乳乳製品供給力の低下している。」、「飼料価格の高騰による酪農経営への打撃がある。」が述べられている。
また、理解醸成活動では、「国際的な乳製品需給」についても触れており、「乳製品の貿易量は、世界の牛乳乳製品生産量の7%程度とごくわずかである。逆に言うと、93%が生産地内で消費されている。」例えばある国で干ばつ、天候異変により生乳生産が停滞した場合、乳製品生産量が減少すると、貿易に回る量は直ぐに減ってしまうことになる。
その他、「世界的な天候変動の影響により穀物生産や放牧環境が悪化し、生乳生産が停滞している。」、「ロシア・中国・アジア諸国・中米などの需要増加により、乳製品の国際相場が上昇している。」といった実態があることを述べている。これは、海外で良質な乳製品が安く作られるなら、海外製品でいいのではないかといった考えに対し、そのように安易に考えて大丈夫だろうか、ということを指摘している。
さらに生産性向上について、「国産飼料の増産と有効利用に向けた努力」、「世界的にもトップクラスの効率性(1頭当り乳量)」を訴えている。

  • 生産者団体の理解醸成活動(中酪)
  • 生産者団体の理解醸成活動(中酪)

23. 酪農乳業の今後の課題

以上、酪農乳業界の現状の中から、いくつかの課題を整理した。
一つは「酪農経営の安定化」を図ることが課題として挙げられる。そのためには「輸入飼料への依存度の軽減」、海外の飼料事情が変化すると日本は大きな影響を受けるため、海外依存体質では、将来的に国産供給をしっかりやろうとするには問題である。そのためには、「国産飼料の増産と有効活用」が必要であり、飼料作物の作付面積の拡大、使ってない水田での茎、葉も活用した飼料米をサイレージ化しての活用、エコフィードとして未利用資源の積極的活用が必要である。
次に、「配合飼料価格安定制度の見直し」が必要である。配合飼料価格安定基金を造成するため、畜産農家と飼料メーカーが積立金を積み、飼料価格が上がった時に基金を取り崩すことが基本の仕組みである。現在7~9月期の安定基金の補填金は5,050円/トンと計算されるが、財源不足のため2,400円/トンが補填されている。差額は緊急対策として国と飼料メーカーが1/2ずつ負担している。一方積立金の額は、生産者と飼料メーカーの合計で1,800円/トンである。前述したように穀類の価格は高いステージに移行してしまっており、基金を取り崩している状況が継続しており、今後も補填金の財源が不安視されている。基金には「通常基金」と「異常基金」があり、「通常基金」は畜産農家と飼料メーカーが積んでいる基金で、「異常基金」は国で用意したお金で、メーカーはこちらにも出している。この二つの基金で酪農家の短期的なコスト増に対応しているが、基金の発動基準が異なるため、今後の財源の問題も含め、両基金のあり方、統合ができるのか等の検討が進める必要があると考える。
三つ目として、「生乳生産コストの低減」のため、乳牛の生涯の分娩回数を増やす飼い方、乳牛の資質の持たせ方が重要で、育種改良・疾病予防・飼養管理・搾乳技術等の向上を通じた長期連産の実現が牧場経営としてコスト低減につながる。また、ここに挙げている成分的な取引基準の見直しとは、乳脂肪率の取引基準のことで、現状は脂肪率3.5%を取引基準にしているため、法律上は3.3%、3.4%の生乳もあってもいいことになっているが、取引契約では3.5%以上の生乳を取引対象にするというようになっている。そのために酪農家では3.3%の牛乳は出荷せず、3.5%になるような飼料の工夫等、コストをかけて対応しているという状況になっている。世界的にはローファットのウェイトが高い状況の中、よりコストの安い生乳生産を目指すのであれば、現状の3.5%基準を見直すことはできないのか、まずは消費者の皆さんにご理解頂くことだが、検討材料と考える。
四つ目として、「生乳の合理的な価格形成」で、乳価交渉は、生産者団体と乳業メーカーとの相対の交渉事で、取引環境上の優勢な側に有利に働き、客観的情報を十分に検討することなく乳価が形成されることも多い。このような中、必要であればJミルクとして「定期的に客観的情報を発信する」ことも対応したいと考える。また、「価格形成フォーミュラの見直しと活用」は、乳価形成に資する生乳生産費や乳業会社の支払い可能乳価を計算する仕組みとしての価格形成フォーミュラについて、より活用しやすいように見直しすることの検討が課題と考える。

  • 酪農乳業の今後の課題1
  • 酪農乳業の今後の課題2

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