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第75回 乳価改定の背景と牛乳・乳製品への転嫁について

牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

第75回 乳価改定の背景と牛乳・乳製品への転嫁について
日時
平成25年8月26日(月)15:00~17:00
会場
乳業会館 3階 A会議室
講師
一般社団法人 Jミルク 常務理事 丸山 章
【 出席者 】
「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」委員
消費生活アドバイザー 碧海 酉癸
管理栄養士 荒牧 麻子
毎日新聞社 記者 今井 文恵
江上料理学院 院長 江上 栄子
消費生活コンサルタント 神田 敏子
評論家・ジャーナリスト 木元 教子
科学ジャーナリスト 東嶋 和子
産経新聞社 文化部記者 平沢 裕子
(50音順)
乳業メーカー:広報担当者
乳業協会:小板橋専務 他
【内容】
猛暑の夏を迎え、酪農乳業界は、乳牛の夏バテによる乳量低下、穀物相場の高止まりと円安の進行による飼料価格の高騰等による生産者の負担増の中、乳業者としても乳価の引き上げへの対応および牛乳の値上げ等厳しい環境の変化の中にある。さらに、TPP交渉の行方に対しても、状況変化に敏感な対応を迫られており、関係団体との連携強化の中、予断を許さない状況が続いている。このような状況の中、日本の酪農事情の今を理解し、また、海外の酪農事情を把握することで、ターニングポイントを迎える日本の酪農乳業の今後に関し、委員の皆様と意見交換させていただきたいと考えます。
そこで、今回は日本の酪農乳業の現状に関しホットなテーマであります、「乳価改定の背景と牛乳・乳製品への転嫁について」のテーマで、一般社団法人Jミルク 常務理事 丸山章様に、ご講演をいただくことにした。
出席者
- 1. はじめに -

今日の課題である、乳価の改定を牛乳価格に転嫁するという今の情勢について、「乳価を上げなければならない情勢とはどんなことなのか?」それを「お客様に転嫁をしなければいけない状況というのはどんなことなのか?」を業界人として考えていることをお話しいたします。

- 2. Jミルクの概要 -

平成25年4月に公益法人制度改正でこれまでの「社団法人」が「一般社団法人」ということで再スタートしている。母体は社団法人日本酪農乳業協会、平成16年4月にスタートした組織で、これまでの名称が分かりづらいとの声に対し、社団法人酪農乳業協会が設立当時から使っていた愛称Jミルクを正式名称とした。
社団法人日本酪農乳業協会は、全国牛乳普及協会、全国学校給食用牛乳供給事業推進協議会、酪農乳業情報センターといった3つの組織が統合した組織だが、唯一法人格であった全国牛乳普及協会に統合して日本酪農乳業協会ができた。
この当時の組織環境として、組織運営の資金を出している酪農生産者の数がどんどん減っていく中にあり、いくつもの組織が存在するのはどうかという視点。また、この3つの組織は、ある程度共通する会員、共通する事業を持っていたことにより、併せても無理のない運営ができるとの考え。さらに国では、行政改革として公益法人の整理を行うという方針のもと、これらの組織は農林水産省が管理監督する組織という背景から、この3つの組織を1つに統合したと理解している。
Jミルクの会員は「生乳および牛乳乳製品の生産流通に携わる者」としており、生(:生産者)・処(:処理業者)・販(:販売業者)というミルクサプライチェーンを構成する者が一体となり、お客様の川上側にいる組織が一つになった、業界横断的なユニークな組織である。
目的とするところは、生、処、販が一体となって「国民の豊かな食生活の向上」および「酪農乳業の安定的発展」を目指し、「牛乳乳製品の普及啓発」「生乳および牛乳乳製品の生産、流通、消費に係る情報収集、分析、提供および農乳業の共通課題の検討」を行う組織で、本日はこの中の「共通課題の検討」という観点からの説明となる。

Jミルクの概要
- 3. 乳価改定について -

今回の乳価改定「10月から、飲用向け乳価を5円/kg値上げ」については、乳価は個別の事業案件であり公式情報ではないが、新聞等では「大手乳業が10月から飲用向け5円の乳価値上げ」と報道されている。
乳価値上げとなる対象乳量はどれくらいかを見ると、我が国の生乳生産量である760~770万トンの半分強の約390万トンが飲用向け生乳処理の対象となる。この中に1割程度の学校給食用の牛乳があり、これは今回の値上げ対象にはならないと考えると、約350万トン程度が乳価値上げの対象となる。全国では、350万トン×5円=175億円くらいが、乳業メーカーの原料乳購入コストの増加ということになる。この額がメーカーの経営の中で吸収できれば価格転嫁が必要ないといえるが、乳業の経営環境が厳しい現状から牛乳価格に転嫁せざるを得ない状況にあると考える。

- 4. 酪農家戸数 -

以下は、日本の酪農家戸数の推移を表したものだが、きれいな右肩下がりのグラフになっている。平成25年2月1日の統計によれば19,400戸(北海道:7,100戸、都府県:12,300戸)となり、2万戸を割り込んだ。この傾向は今後も反転するとは思えず、戸数は今後も若干ずつの減少になると推察する。過去の推移を見てみると、昭和38年がピークで、418,000戸(北海道:55,000戸、都府県:363,000戸)あり、現在の20,000戸は、ピーク時の1/20の戸数になっている。

酪農家戸数
- 5. 経営規模 -

1戸毎の経営規模は、下記グラフに示すように、ほぼ直線的に規模拡大が進んできたといえる。この傾向は今後も続くのではないかと見ている。以前から、牛舎を一杯にする、牛舎を大きくする、ということで個々の酪農家が規模を大きくしていったが、最近は規模の拡大についていけない小さい酪農家が離脱し、大きな農家が残るということで、平均規模の拡大に繋がっている。昭和30年代は、北海道、都府県共に1戸当たり2~3頭の牛を飼っていた。当時の牛は高価で、相対的な酪農家収入も多く、2~3頭飼えば子供の教育費は賄えた様であった。現状の平成25年の統計では、全国平均で73.4頭(北海道:113.2頭、都府県:50.2頭)で、何処の牧場を見ても50頭を超えているのが現在の状況である。

経営規模
- 6. 乳牛頭数

酪農家戸数が減少し、1戸当たりの頭数が増えている状況において、牛の総頭数はどうなっているかをみると、残念ながら、乳牛頭数は減少基調になっている。平成25年、直近の統計では1,423,000頭(北海道:807,000頭、都府県:616,000頭)となっている。これまで戸数が減少していても経営規模の拡大で乳牛頭数は増加していたが、昭和60年の2,111,000頭(北海道:808,000頭、都府県:1,303,000頭)をピークに戸数減少と共に総頭数も減少を続けている。今後もこの傾向が続くものと推察する。

乳牛頭数
- 7. 産乳能力

次に、乳牛1頭当たりの生乳生産について見たのが下記グラフである。昭和56年からのグラフであるが、右肩上がりに増加してきている。昭和30年代には経産牛1頭が1年間に約4,000kgだったものが、昭和56年には5,000kg、最近では8,000kgとなっている。近年、その伸び率が緩くなってきているが、この8,000kgという水準は世界的に見ても相当に上位であり、見劣りするものではない。ヨーロッパとの比較では日本の方高い能力を示している。しかし、この水準は乳牛が持っている能力の限界に近づいたのではないかと思う。

産乳能力
- 8. 生乳生産量

乳牛頭数と個体乳量をかけると生乳生産量になる。乳牛頭数と産乳能力の向上により生産量が伸びてきたが、乳牛頭数が減少に転じてきたことで、平成8年をピーク(8,659,000トン)に生産量の伸び率が下降傾向に転じている。今後もこのトレンドは続くと見ている。

生乳生産量
- 9. 1戸当り乳量

下図に示すように、1戸当たりの出荷乳量は増加しており、昭和56年と比較すると約5倍の規模になっている。北海道では546トン/戸・年、都府県では293トン/戸・年となっている。個体乳量も増えてはいるが、この乳量の伸びの背景は1戸当り頭数の増加によるものであった。

1戸当り乳量