第72回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

8. 牛の感染実験

感染実験のデータを3つ示している。月齢4~6カ月の牛にBSE感染牛の脳幹100gを経口投与した場合、投与後36カ月で臨床症状が現れた。SRMを見ると32カ月で発症した事がわかる。月齢4カ月を加えると36カ月齢で発症している。同様の実験でもSRMで30カ月で発症している。
脳幹100gは極端に多い量であるため、現実的な量としてBSE感染牛の脳幹1gを経口投与した実験結果をみると、発症が大きく遅れ、SRMで44カ月となり、月齢では48カ月での発症となった。肉骨粉に含まれていたであろうと推察した量1gでは、46か月齢相当までは脳にSRMが見つかることはまずないといえる。

BSEプリオン感染実験 英国VLA
注1:本実験は4~6か月齢の子牛を対象としため、ウシの月齢としては感染後月数にこれが加算される。
注2:1g投与群において、脳に異常プリオンたん白質は42か月目(46か月齢相当以上)までは不検出。

次の実験は、BSE感染牛の脳幹1mg~100gを牛(4-6か月齢)に経口投与し、発症・安楽死までの潜伏期間(月)から、各投与量ごとの平均発症期間を算出した。
イギリスにおいて、BSEプリオンに最も高濃度・高頻度に汚染された飼料によりBSE感染した牛の発症状況をみると、発生状況等から発症までの期間は平均5~5.5年と推定されたことから、この実験結果からBSE感染牛が平均的に摂取したであろうBSEプリオンの量は、BSE感染牛の脳幹100mg~1g相当と推察する。
日本で21か月齢で見つかったBSE陽性牛に関しては、閂部におけるBSEプリオンの蓄積が認められたが、定型BSE感染牛と比較して1/1,000程度であった。
BSEプリオンへの感受性の高いウシ型プリオン遺伝子組換えマウスを用いた脳内接種による感染実験でも感染性は認められなかったことから、日本の21か月齢のBSE陽性牛の感染性は認められず、人ヘの感染性は無視できると判断した。

ウシへのBSEプリオン投与量と潜伏期間
※飼料がBSEプリオンに最も高濃度・高頻度に汚染されていたと考えられる時期の英国(野外の発生状況等から発症までの期間は平均5~5.5年と推定。)においても、野外でBSE感染牛が摂取したであろうBSE プリオン量は、感染実験におけるBSE 感染牛の脳幹100 mg~1 gの場合のBSEプリオン量に相当すると推察。

9. 非定型BSE

近年、従来のBSEとは異なる異常プリオンたん白質(PrPSc)のバンドパターンを示すBSE(非定型BSE)が欧州、日本、米国等で少数例報告されている。この非定型BSEは無糖鎖PrPScの分子量に基づいて、H型(H-BSE)及びL型(L-BSEもしくはBASE)の2種類)に大別される。

世界の非定型BSEの発生頭数

これまでに、2010年12月時点で61例見つかっており、フランスで最も多く、H型、L型含め27例見つかっている。日本でも2例、L型が見つかっている。1例が23カ月齢、もう1例が10歳以上の母牛であった。非定型BSEはどれくらいの年齢で見つかるかというと、6.3歳~18歳の間、平均で8歳を超えてから見つかっている。日本で唯一23カ月という若い牛が見つかっているが、この場合は症状はなくと畜場でBSE診断キットにより擬陽性となり、ウェスタンブロット法という確定検査により僅かな濃度であるが蓄積が見られた。前述の21カ月齢の定型BSEと同様に1/1000程度で、ウシ型プリオン遺伝子組換えマウスを用いた脳内接種による感染実験でも感染性は認められなかった。検出はされたが、感染性を持ったものではなかった、と結論付けた。
フランスでの非定型BSEがどのように見つかっているかは、グラフに示すように特段のピークは見つかっておらず、横軸の生まれ年に対しばらついた発生になっている。定型BSEの場合、1995年に大きなピークを示したことは、イギリスから肉骨粉が入り、食べさせることで増加し、飼料規制をかけることで減少したことを示している。しかし、非定型の場合は年齢に特に関係なく発生していることから、現状では明確な理由は不明である。

<非定型BSEの感染検出年齢>

非定型BSEはほとんど8歳超の高齢牛であり、日本の23か月齢の非定型BSE検査陽性の事例を除けば、6.3歳~18歳で確認

●フランスで確認された非定型BSE感染牛についての解析(2001年1月~2009年後期)

フランスで確認された非定型BSE感染牛についての解析

●日本の23か月齢の非定型BSE陽性牛の事例について
  • 症状は認められず、と畜場のBSE迅速診断検査で疑陽性
  • 濃縮したWB解析で非定型と確定
  • 閂部におけるBSEプリオンの蓄積量は非常に少なく、他の例の1/1000程度と推計
  • ウシ型遺伝子組換マウスを用いた感染実験の結果、感染性は認められなかった

10. 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)

ヒトのプリオン病として、孤発性CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病、自然発症型CJD)は、日本でも年間約100万人に1人の割合で発症している。発症年齢は平均68歳で、発症から死亡までの期間は約1年以内といわれている。アルツハイマーとは病変の形が異なり、BSEのパターンに似て、脳にスポンジ状の穴が開いていく形態を取っている。
あと、遺伝性のプリオン病で家族性CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症がある。
その他に、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)は、牛海綿状脳症(BSE)に罹患した牛の脳などの特定危険部位を食べることにより感染するもので、全世界でこれまでに227名の人が発症し、このうち176名がイギリス人である。若年での発症が多く、死亡までの期間は平均1年強。イギリスにおける中央値の発症年齢は26歳、死亡年齢は28歳となっている。(1995~2009年)
発症当時、5,000人を超えるのではないかと危惧されたが、飼料規制を行いBSEを治めたことで、このレベルで止まったと考えている。
また、医原性のものに、硬膜移植後CJDがある。脳外科手術に用いられた乾燥硬膜に、適切に処理されていない孤発性CJD由来の硬膜が混入し、手術を受けた患者に伝播したものである。
クールーという過去にパプアニューギニアにあった病気がある。食人の習慣で、英雄の脳を食べるということが行われ、後に発症したというもので、プリオン病の一種とされている。食べてから40年以上も後に発症したという例もある。
変異型の患者発生数をイギリスおよびイギリス以外のEUを見ると、1986年にBSEが発症し、1992年にイギリスでBSEのピークが現れている。イギリスでのvCJDのピークは2000年に、BSEの牛を食べたことで遅れて現れている。ヨーロッパでは、2001年にBSEのピーク、遅れて2005年にvCJDのピークとなっている。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の発生は227例確認されており、1989年にイギリスで脳、せき髄等の食品への使用を禁止した後、1990年以降の出生者にvCJD患者は確認されていない。
英国でのvCJDの発生は、過去のワーストケースの予測では5,000人を超えると心配されていたが、その3.5%の水準で収まった。
BSEプリオンへの人の感受性は、「種間バリア」(種の壁)により、牛より低いと判断した。
ただし、遺伝子タイプでプリオンタンパク質の129番目コドン(核酸の塩基配列が、タンパク質を構成するアミノ酸配列へと生体内で翻訳されるときの、各アミノ酸に対応する3つの塩基配列)が、メチオニンーメチオニンもしくはメチオニンーリジンであるが、日本人はメチオニン-メチオニンタイプが90%である。メチオニン-メチオニンタイプがハイリスクといわれているため、日本人の方がリスクが高いことになり、注意する必要がある。

1988年から2011年における英国及びEUにおけるBSE及びbCJDの発生数の推移

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