第73回 牛乳・乳製品から食と健康を考える会 開催

4. 牛乳を飲むと太る?

若い女性の中には、「牛乳を飲むと太る。豆乳は太らない。」と思っている人がけっこう多い。「本当に太るか?」は、人によっても、飲む量によっても違うが、以下に示すように1本飲んでもエネルギーの面ではそれほど多くなく、太る要因ではない。ただ食品としては栄養的に優等生と考えられているため、太ると思われている。

牛乳200mlのエネルギー、栄養素寄与率

図3は、2000年にアメリカから出たデータである。18~31歳の正常体重の女性54名を対象に2年間追跡調査したものである。その2年間にどれだけカルシウムを摂ったか、1日当たりのカルシウム量がどれだけだったかで3グループに分けて、体脂肪がどのように変わったかを見たものである。1日にカルシウムを500mgしかとらなかったグループは、体脂肪が2%増えている。一方、カルシウムを1日に1000mg摂ったグループは、体脂肪が3%減っている。このデータは、カルシウムを摂ると痩せるということを示した初期のデータである。

<図3>
カルシウム摂取と体脂肪量の変動

我々は、「カルシウムは骨を強くする、そのために牛乳・乳製品を」との思いで研究を進めていたが、このデータが出た時に初めて、牛乳・乳製品とカルシウム、さらに痩せることとの関係に気付かされた。
アメリカの場合は、カルシウム摂取量の約7割が牛乳・乳製品からであるため、カルシウム量で示してあるが、これを乳製品で解析すると、恐らく牛乳・乳製品由来のカルシウムの方がより良い結果が得られると考える。サプリメントの様なカルシウムではこのような結果は得られないと言われている。
もう1つデータを示す。図4はアメリカの国民健康栄養調査データを解析したもので、カルシウム摂取量と乳製品摂取量を4分類して示したものである。カルシウム摂取量が一番少ないグループを1にすると、カルシウム摂取量あるいは乳製品摂取量が増えるに従って肥満のリスクは下がるという結果を示している。つまりカルシウムや乳製品をたくさん摂っている人の方が肥満になり難いことを示している。

<図4>
カルシウム、乳製品摂取量と肥満のリスク

そこで我々も、骨ではなく、肥満にも注目しなければということで、女子高校生のデータを解析し体脂肪率を見たのが図5のデータである。殆ど飲まないから200ml以上飲むまでを4グループに分けて示したもので、牛乳を飲んでいるグループの方が体脂肪率が低いというデータである。尚、体脂肪率に影響する運動とエネルギー摂取量の影響は取り除いている。
牛乳・乳製品が体脂肪を減らすようなメカニズムがあるのではということを検討する必要があると考えていたところ、メタボリックシンドロームが注目されてきたことにより、評価基準としては、体脂肪、肥満だけではなく、高血圧、血糖等も含めて考えようということで、生活習慣病に関して牛乳がどう関与するかを総合的に見るべく検討を進めた。

<図5>
牛乳摂取と体脂肪率 女子

5. 牛乳とメタボリックシンドローム

図6のデータは、2005年にイランから出たもので、牛乳・乳製品摂取状況とメタボリックシンドローム(MS)の該当者比率を示している。「あなたは1日に牛乳・乳製品を何回摂っていますか?」の回答を4段階に分けた場合のメタボリックシンドローム該当者は、摂取回数が増えるに従って減少してくることを示している。この場合は男女一緒に解析しており、またイランと日本の食生活の違いもあることを考慮する必要があり、そのまま日本人も同じとはまだ言えない。

<図6>
牛乳・乳製品摂取状況とMS該当者 イラン

図7は、牛乳・乳製品摂取回数の最も少ない1.7回以下の人達がメタボリックシンドロームになるリスクが1であるとした場合、乳製品摂取回数が増えるとそのリスクが減少することを示している。
おそらく、世界で初めて出たデータである。肥満に関しては2000年に紹介され新たな知見として注目されたが、メタボリックシンドロームとしてくくった時も、牛乳・乳製品をたくさん摂っている人達の方が少なくなるというデータである。

<図7>
牛乳・乳製品摂取状況とMSのオッズ比 イラン

メタボリックシンドロームには、肥満、血圧、血糖、血清脂質等色々な要因があり、このうち何項目に当てはまるか、牛乳・乳製品がどの項目に効果があるのかをみた結果を図8に示す。
血液中の中性脂肪(TG)に関しては影響が出ていないが、ウェストに関しては、牛乳・乳製品摂取量の多い人の方が、ウェストが細い傾向を示している。高血圧の人も少なく、善玉コレステロール(HDL)が低い人も少ない傾向を示している。これらイランのデータでは、ウェスト、血圧、HDLコレステロールに効果が出ている可能性を示している。これらをまとめると、メタボリックシンドロームに効果を示した、ということになる。

<図8>
乳製品摂取状況とMS関連項目 イラン

また、ほぼ同時にアメリカからも同様のデータが出された。図9のデータは女性のみ約10000人での調査となっている。こちらは、牛乳・乳製品の摂取回数を5段階に分けて、最も少ないグループは、1日0.91回以下、最も多いのが1日3.00回以上となっている。
前データと同様に0.91回以下の人達がメタボリックシンドロームになるリスクを1とした場合、乳製品摂取回数が増えるとそのリスクが減少することを示している。3回以上摂っているグループでは、30%程度メタボリックシンドロームのリスクが低下している。メタボリックシンドロームは牛乳・乳製品だけで決まるわけではなく、年令、エネルギー摂取量、運動、喫煙などが影響するため、それらの要因を調整した後のデータで示しており、牛乳・乳製品を多く摂っている人の方がメタボリックシンドロームの人が少ないといえる。

<図9>
牛乳・乳製品摂取状況とMSのオッズ比 アメリカ

図10は、摂取回数をカルシウム摂取量に換算し5段階にグループ分けしたもので、1日摂取量が516mg以下の人たちがメタボリックシンドロームになるリスクを1にした場合の摂取量に対するメタボリックシンドロームになる変化を示している。カルシウム摂取量の増加に伴い、メタボリックシンドロームになるリスクが低下している。

<図10>
カルシウム摂取状況とMSのオッズ比 アメリカ

では、イランデータと同様にメタボリックシンドロームのどの項目に効果があるのかをみた結果を図11、図12に示す。
ウェスト回りが88.9cm以上、BMI30以上、さらにHDLコレステロール50mg/dL以下、さらに血圧35/85mmHg以上、2型糖尿病にあてはまる人の割合が、カルシウム摂取量の増加と共に減少している。中性脂肪に関しては、イランのデータと同様に影響が現れなかった。以上から中性脂肪以外は色々なメタボリックシンドロームの項目に牛乳・乳製品の効果がある可能性を示している。単に痩せるだけではなく、色々な効果が期待できる可能性が得られた。

<図11>
カルシウム摂取状況とMS関連項目1

<図12>
カルシウム摂取状況とMS関連項目2

2005年にこのデータが出され、興味を持ったものの、日本人に当てはめてみると、日本人1日のカルシウム摂取量の平均が500mg強という現状から、アメリカのデータのカルシウム摂取量のグループ分けでは、最も少ないグループとなってしまい、効果が顕著な1日1284-4211mgのグループのような摂取量の日本人は殆どいない。つまりこのアメリカのデータをもとに、日本人もメタボリックシンドロームになり難いとはいえない。また、イランのデータもイランと日本の食生活が恐らく大きく違うと考えられ、同様に日本人も牛乳を飲むことで良くなるとはまだいえない。
そこで日本人独自のデータを摂る必要があると考え、研究を行った。

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